周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます

 エリシアが恐る恐る聞くと、ゼインは口の端を上げながら少しずつエリシアに顔を近づける。そして、鼻先が触れ合いそうなほどの距離まで近づいて、止まった。

「ま、またそうやって!ゼインはすぐからかおうとするんだから!」

 聖女エリシアの専属護衛騎士であるゼインは、最近やたらとエリシアをからかってくる。エリシアが聖女になってからすぐにゼインが専属護衛騎士となったので長い付き合いだ。過保護だな、と思うことは昔からあったけれど、今までは騎士として適切な距離を保ってくれていたし、エリシアにとってもそれが正しいものだと思っていた。

 だが、ここ最近はやたらと距離感が近すぎる。まるでエリシアをからかって楽しんでいるのではないかと思えるほどだ。エリシアが慌てて顔をそらすと、ゼインは少し残念そうな顔で体を離した。

「別にからかってなんかいませんよ、俺はいつだって本気です」

(本気って……からかってくるたびにいつもそう言ってくるけれど、一体どういうつもりなの?)

 真意がわからないゼインに、エリシアはいつも困ってしまう。

「エリシア様、そろそろ身支度を整えないと、会議に遅れてしまいますよ。朝食だってまだでしょう」
「えっ、あっ!そうよね!すぐに支度します」

 エリシアが慌ててベッドから降りクローゼットを開くと、ゼインはやれやれと言った様子でエリシアの背後に回る。そんなゼインを、エリシアは不審に思って振り返った。

「……ゼイン、着替えるから部屋から出てくれる?」
「着替えも手伝いますよ。一人だと時間がかかるでしょう」

 しれっとそう言って、ゼインはエリシアの寝間着に手を伸ばそうとした。

(ど、どうしてそうなるの!?)

「二人の方が時間がかかります!そもそもゼインがいたら着替えられない!」

 エリシアが顔を真っ赤にしてそう抗議すると、ゼインはふん、とつまらなそうな顔をしてから手を引っ込め、仕方ないといわんばかりの顔をしながら部屋を出る。

(一体、ゼインはどうしちゃったの!?今までこんなことなかったのに……!)

 エリシアにとって、実はゼインは頼れるしっかり者の護衛騎士というだけではなく、ほんのりと淡い恋心のような、憧れの気持ちもある存在だ。だが、聖女だからそのような気持ちを持っていてはいけないと、自分の気持ちを完全に封印してずっと正しい聖女としてゼインにも接して来た。

 それなのに、今やゼインの方からそれを崩すようなことばかりしてくる。そのたびに、エリシアの心は大きく波打ち、揺らいでしまうのだ。

(私、このままじゃゼインに対しての気持ちが抑えられなくなってしまう……!)