「俺、別れても柚子のこと好きだから。これからも柚子に本当の意味で好きになってもらえるように努力するし、いつか憧れじゃなくて、本当の意味で俺のことを好きなってもらうから」
最後に柚子の隣にいるのは俺だと願いたい。
そう柚子に最後に俺は言えなかった。
「わ、わたし、本当に、悠里くんのことが好きだったの…。気持ちの形が違うだけだったの…。ありがとう、私にたくさんの夢を見させてくれて…」
柚子が泣きながら俺に笑う。
辛そうに、だが、清々しいその笑顔に俺は複雑な気持ちになった。
もう柚子は俺に囚われていない、俺の彼女ではない、自由の身だ。
そのことが苦しくて、でも、明るい柚子の笑顔は俺を幸せな気持ちにもさせる。
結局どちらを選んでも、俺は傷ついて、それでも幸せを感じずにはいられないようだ。
それならば、絶対に柚子が心から笑っている未来の方がいい。
「最後にわがまま言っていい?」
「うん…?」
柚子の瞳をおそるおそる覗く俺に、柚子が不思議そうに頷く。
一体どんなわがままを?という柚子の視線を受けながらも、俺は遠慮がちに笑った。
「…キスしてもいい?最後に」
「え…?」
俺の願いに柚子が目を丸くする。
それから数秒後、願いの内容を理解したのか、柚子はその愛らしい頬を真っ赤にし、口をパクパクさせた。
ぱちぱちと何度も何度もまばたきをして、視線を彷徨わせている様は、側から見てもパニックになっているのだとわかる。
その様子に少し申し訳ないな、と思いながらも、こんなにも俺を意識してくれているのか、と嬉しくもなる。
こちらも感情がぐちゃぐちゃだ。



