「私、悠里くんのことが本当にずっと好きだった。憧れと恋の違いもわからなくて、本気でそうだと思ってた。だけど、今は違うってわかってて、別れるべきだってわかってて…。でも悠里くんがそれでもいい、て言ってくれたから、その優しさに甘えて、悠里くんの側にいることを私が選んだの。ダメだとわかっていたのに」
伏せられた柚子のまつ毛の隙間からキラキラと光るものが見える。
一生懸命涙を堪えながら、柚子はそれでも俺に自分の気持ちを伝えることをやめなかった。
「でもやっぱり、傷ついている悠里くんは見たくないな。傷ついてもいいて言われても無理だよ」
伏せられていた視線が上げられ、柚子の頬に涙が流れる。
弱々しかった声とは裏腹に俺をまっすぐと見つめるその瞳には、柚子らしい強さを感じた。
「別れたくなかったのは私も同じ。だけど、このままじゃ、悠里くんは心から笑えないね」
つい先ほどまで消えてしまいそうだった柚子の声に、力が入っていく。
俺を強く射抜く瞳に、俺はドクンッと鼓動を鳴らした。
俺の好きな意志の強い瞳。
優しいだけじゃない、確かな強さがある人。
それが鉄崎柚子なのだ。
柚子が俺に何を言い出そうとしているのか、俺はこの時点でもう何となくわかっていた。
おそらく柚子は俺に別れを切り出そうとしている。
またあの言葉を聞くのか、と思うと心が沈む。
できることならもう一生聞きたくないとさえ思える。



