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夕食後、私はみんなが洗ってくれた食器を大きな食器棚に一枚ずつ返していた。
同じ食器のところに同じ食器を片付ける。
しかしただそれを淡々と繰り返していた私の手は、最後の一枚で止まってしまった。
…高い。
私が下から睨む場所。最後の一枚を片付ける場所だけ、私が手を伸ばしたさらに先にあったのだ。
誰が一体あんな場所から皿を取ったのか。
呆れながらも仕方なくつま先を立て、食器棚に体重を預けるように左手を置く。それから最後の一枚を片付けようと、右腕を思いっきり上へと伸ばした。
わずかに震える手の先には、確かにこの皿を片付ける場所があるのだが、届きそうで届かない。
さすがに頑張っても無理だと諦め、手を引こうとしたーーーーその時。
私の背後からスッと影が伸び、その影の主が私の手から皿を取った。
そしていとも簡単にその皿を片付けた。
背中に感じるほんのりと熱を持ったしっかりとした体に、私よりもずっと高い身長。ほんのわずかに見えた大きな手に、ふわりと鼻をかすめる、爽やかな香り。
…悠里くんだ。
そう気づいた瞬間、私の体温は一気に跳ね上がった。
「ゆ、悠里くん?」
おずおずと影の主の名前を呼び、ゆっくりと振り返る。
するとそこには、予想通り悠里くんが立っていた。
至近距離で私と目の合った悠里くんが、その瞳を優しく細める。
「あ、ありがとう、悠里くん」
そんな悠里くんになんとか平静を装って、笑顔でお礼を口にすると、悠里くんは「いえいえ」といつも通り柔らかく私に微笑んだ。



