『二人と付き合えば、二人とも救われて、みんな幸せじゃん?』
脳内にまた悪魔の囁きが響く。
だ、だから、ダメだってば!
そんなこと許されるはずがない!
幸せなはず、ない!
ぶんぶんと頭を激しく横に振り、悪魔の囁きを完全に頭の中から追い払う。
私は悠里くんの彼女!
誠実に彼だけを見る!
そう心の中で高らかに宣言し、私を未だに抱きしめる千晴の手の甲をつねった。
私につねられて、千晴は「いったぁ」と、全く痛くなさそうに私から離れた。
「先輩、邪魔してごめんね。お詫びに一緒にやろう?」
全く悪びれる様子もなく、ねだるように千晴が私を見る。まるで子犬に「遊んで?」と可愛らしく訴えられている気分だ。
腹が立っていたはずなのに、そこには許そうと思えてしまうものがある。
「…いや、アンタここの班じゃないじゃん。千晴がこっちに来たら班の人が困るでしょ?」
「んーん。俺、ちゃんと聞いてきたから。先輩のとこ、行っていい?って。なんなら証言させてもいいけど?」
「…証言はいいよ」
「じゃあ、ここにいてもいい?」
「……うん、いいよ」
無表情のまま事の顛末を淡々と話した千晴に、私は呆れながらも頷いた。
千晴が言っていることは多分本当で、班の人たちも千晴を送り出さざるを得なかったのだろう。
私にとってコイツは子犬のようなやつだが、ほとんどの人にとって、大きすぎて手に負えない狂犬なのだ。
誰も千晴に文句など言えないはずだ。
仕方ないので私は私の班のメンバーに許可をもらって、千晴と共にカレー作りを再開することにしたのだった。



