「それにしても地獄の空気が嘘みたいにラブラブねぇ、アンタたち」
力なく項垂れる私に、雪乃がとどめを刺すようなことを言う。
側から見ると、私と悠里くんはラブラブに見えるらしい。
合宿中、各自にプリントが渡され、それを解いていくのだが、席は好きな場所を選べた。
その為、悠里くんは当然のように私の隣に座り、私と共にずっといた。しかもとても近い距離で。
さらに悠里くんは、何か質問があれば、周りの迷惑にならないように、私の耳元に唇を寄せ、低い声音で話しかけてきた。
付き合っている二人が、肩のあたりそうな距離でプリントをし、時に囁き合う。
こんな姿、誰がどう見てもラブラブでアツアツな二人にしか見えない。
私は悠里くんをただ推しているに過ぎない、同じではないのに。
「クソだよね、私…」
私の心とは違い、憎いほど晴天の空に、私は弱々しく呟いた。
ちなみに雪乃にだけは、今まで起きたこと、私の気持ちなど全部を話している。
なので、私が何故こんな感じなっているのか、全部わかって、雪乃はああ言っていた。
「いい案があるよ」
ふと、雪乃が私に怪しく笑う。
雪乃のいい案なんて、ろくなものじゃないだろうが、私は一応「何?」と聞いてみた。
「選ばなければいいのよ。二人と付き合うの。好きの種類が違うだけで、二人とも好きなわけだし」
ふふ、と楽しそうに瞳を細める雪乃に、自然と眉間に力が込められる。
全く理解不能な考え方だ。
さすが自由奔放清楚系小悪魔だ。
「…普通の人は一気にたくさんの人と付き合わないんだよ?愛は一つだけだから」
呆れながらも、改めて奔放で普通とはかけ離れすぎている雪乃に、普通とは何かを説く。
だが、私の言葉は雪乃には全く響かなかった。



