*****
どこまでも広がる、青い空。
周りを取り囲む、木々。
ここには都会のような喧騒はなく、聞こえてくるのは、小鳥のさえずりや、どこかにある川のせせらぎ、木の葉が揺れる音だ。
自然溢れるここで私は大きく息を吸って、吐いた。
山は空気まで美味しいらしい。
静かで何もない場所。
だからこそ、勉強にも身が入る。
私の後ろ、自然の中にポツンとある宿泊研修施設は、我が鷹野高校が春休みの勉強合宿をする場所として最適な場所だった。
勉強合宿とは、春休み中に行う一泊二日の合宿のことだ。
進学科の生徒は全員参加が決められており、スポーツ科、普通科の生徒は希望制で参加できるようになっていた。
進学科の生徒である私はもちろん今年もこの合宿に参加しており、雪乃も去年と引き続き、渋々参加していた。
「…はぁぁぁ」
美味しい空気を吸って、また大きく吐き出す。
先ほどからため息が止まらない。
自然の中で何度もため息を繰り返す私に、雪乃は「そんなにため息ばかりついてると幸せが逃げるわよ」と、おかしそうに言ってきた。
その表情はかなりあっさりしており、心配のしの字もない。
雪乃らしくて、逆に安心する。
私からため息が止まらない理由。
それは現在進行形でいろいろなことに悩まされているからだった。
一つ目の悩みは悠里くんだ。
私は悠里くんと同じ想いを抱いていない。
だからこそ、別れを告げたのだが、結局私は悠里くんと別れられなかった。
全てを話し終えた後も、私たちは変わらぬ関係を続けていた。
いつものように一緒に昼食を食べ、放課後は一緒に帰る。
私の隣には当然のように悠里くんがいてくれて、優しく微笑んでくれる。
その笑顔が眩しくて尊くて好きが溢れるのだが、その好きは恋ではなく、憧れだ。
そう理解するたびに、果たして私が今選んでいることは正解なのかと胸が苦しくなった。
同じじゃないとわかっていながら私と付き合い続けることが悠里くんの心からの笑顔に繋がるのか、と。



