「…もう少しで終わるから待ってて。ここで」
気づかうように私の瞳を覗き、ぽんっと私の頭に悠里くんが軽く触れる。
暖かいその瞳と優しい大きな手に、私の心臓はドクンッと跳ねた。
私の推し、本当に好きだったの。
恋だと思ってたの。
いつものように速くなる鼓動に、泣きそうになる。
そんな私を悠里くんは心配そうに見つめると、頬を優しく撫で、離れ難そうにコートへと戻っていった。
悠里くんが触れてくれた、頭に、頬に、悠里くんの熱が残っている。
その熱を感じながら私はおずおずと再びコートへと視線を向けた。
バスケ部はどうやら試合をするらしい。
赤と青のビブスを着た部員たちが、コート内でそれぞれの位置についている。
その中で青のビブスを着ている悠里くんは、誰よりも光輝いてみえた。
…やっぱり、眩しくて、尊くて、かっこいい。
気がつけば、私は悠里くんだけを目で追っていた。
チームメイトからボールを受け取り、シュートを放つ悠里くん。
相手のディフェンスをものともせず、華麗に抜き去る悠里くん。
難しい位置にいるチームメイトに、難なくパスをする悠里くん。
さすが我が鷹野高校のエースと呼ばれているだけあり、大活躍だ。
何をしても完璧で素晴らしい悠里くんに、私はふわふわと夢の中にいるような心地になった。
やっぱり、かっこいい。
好き。
けれど、この想いは恋ではない。
芸能人やアイドルを見て抱く感情と同じだ。
〝恋〟と〝憧れ〟。
こんなにも違うのに、どうして私は今まで気づかなかったのだろうか。
なんて鈍くて愚かなのか。
鈍くて、愚かで、何も知らなかった自分が憎い。
悠里くんへのときめきを感じるたびに、私の胸は締め付けられ、苦しくなっていったのだった。



