推しに告白(嘘)されまして。






「て、鉄子だ…」



そんな突然現れた私の存在に気がついたバスケ部の1人が、持っていたボールを落とし、驚愕の表情を浮かべる。
そしてこの声を皮切りに、体育館内にざわめきが広がった。



「彼氏を見に…?」

「いや、偵察じゃね?」



不思議そうに首を傾げる者もいれば、緊張の色を浮かべている者もいる。
私を見つけた部員たちは、様々なリアクションをしていたが、その瞳には確かに私への〝恐怖〟があった。
正直、慣れたものなので、特になんとも思わないが。



「柚子!」



しかしその中で、悠里くんだけは違った。
私を見つけて、こちらに微笑む悠里くんの瞳には、嬉しさと好意があった。

他の人とは違う視線。
私を鬼の風紀委員長ではなく、普通の女の子として見て、愛してくれている視線。

あの視線に射抜かれるたびに胸が苦しくなる。
私は悠里くんと同じではなかったのだ、と。

悠里くんは周りの部員に軽く声をかけると、わざわざこちらまで駆け寄ってきてくれた。



「今日、委員会早く終わったの?」

「うん」



いつもの優しい笑顔で悠里くんに問いかけられて、私はなんとか笑顔で頷く。

…いつも通りを演じなくては。
悠里くんにとっては今日も何でもない一日だったのだから。

だが、悠里くんは何かを察したのか、その顔から笑顔を消した。