*****
「…」
一睡もできなかった。
鳴り止まないスマホのアラーム音を耳に、私は布団の中でただただ天井を見ていた。
とても最悪の目覚めだ。
もう起きねばならないので、仕方なくゆっくりと体を起こす。
それから慣れた手つきで、布団を畳み、私は重たい足取りで部屋を出た。
昨日、あんなことがあった後でも、私は寝る前まで、悠里くんと連絡用アプリでいつも通りにメッセージのやり取りをしていた。
体操服のお礼を言って、そこから他愛のない話をして。
何時間も続いたラリーの中で、悠里くんに私の本当の気持ちを言う機会なんていくらでもあった。
しかし、それを送ろうとするたびに、脳裏に悠里くんの笑顔が現れ、呪いでもかかったかのように指が動かなくなった。
言わなければならない、と確かに決意したはずなのに。
ーーー直接言った方が誠実なのでは。
固まった指に、私はそんな言い訳を重ねた。
けれど、メッセージでも言えない私が果たして直接悠里くんに本当の気持ちを言えるのだろうか。
どうしたらいいのかわからず、ただただ悶々としているうちに、悠里くんから『おやすみ』とメッセージがきた。
結局、私は悠里くんに何も言えずに、夜を超えたのだ。
悠里くんとのやり取りを終え、スマホを置いても、布団の中で寝ようと、まぶたを閉じても、〝言えなかった〟という思いが胸を塞いで、眠気なんて一度も来なかった。
「…はぁ」
小さく息を吐いて、洗面所へと入る。
チラリと鏡に映った私の顔にはうっすらと隈があり、朝だというのにひどく疲れた顔をしていた。
…今日こそ、直接会って言う。
洗面台の前で、私はもう一度、静かに決意を固めた。



