私は恋を知っているつもりだった。
相手を想うだけで幸せで、相手の存在が自分の世界を照らしてくれる。
そこにいてくれるだけでよかった。
悠里くんへの感情こそがまさにそれだった。
だが、この光溢れる優しい感情は恋ではなかったのだ。
愛おしくて、苦しくて、胸が張り裂けそう。
けれども、愛さずにはいられない。
これがきっと、恋…いや、愛だ。
私は千晴を愛していたらしい。
そして悠里くんを愛していなかった。
愛でも、恋でもない。憧れという感情を私は悠里くんに向けていた。
その事実に気づいた時、私の胸にズキッと鈍い痛みが走った。
出し続けていたシャワーを止め、視線を伏せる。
私から滴る雫は先ほどとは違い、温かい。
私、最低だ。
愛と憧れの違いもわからず、悠里くんに恋しているのだとずっと勘違いしていた。
まっすぐに私に好きだと言ってくれた悠里くんに、私は酷いことをしていた。
脳裏に悠里くんの柔らかな笑顔が浮かぶ。
いつも優しくて、誠実で、時に甘くて、かっこいい。
そんな彼が確かに好きだった。好きだったはずなのに。
私の想いは悠里くんと同じではなかった。
ずっと、ずっと、私は悠里くんを裏切ってきたのだ。
「…」
罪悪感で押し潰されそうになりながらも、視線をゆっくりと上げる。
鏡に映った私の瞳には、先ほどのような混乱はなく、強い意志が宿っていた。
もうこれ以上、悠里くんを裏切るようなことはしてはいけない。
誠実な悠里くんに、私も誠実でなければならない。
ーーー別れを、告げよう。
私の足元に滴り落ちる雫が、ぽた、ぽた、と静かに音を立てる。
この場に広がる静けさに包まれながら、私はひとり、別れを告げる決意をしたのだった。



