ただでさえ暗いのに、路地へと入ったことによって、さらにその暗さが濃くなる。
空から容赦なく降り注ぐ雨を受けながら先輩を見ると、先輩は目を大きく見開き、こちらを見つめていた。
先輩の大きくて愛らしい瞳が俺に訴えている。
何故、このようなことになっているのか、と。
俺と同じように雨に打たれている先輩は、どこか色っぽくて、愛らしくて、思わず抱きしめたい衝動に駆られた。
…が、その胸元に見えた〝沢村〟という文字に、また気分が沈んだ。
「…柚子先輩」
吐き出された俺の声が、静かに路地へと響く。
焦がれるように先輩を見て、俺は先輩を壁へと追いやった。
「ち、千晴?」
そんな俺を先輩は困惑したように見つめている。
頬を赤く染め、瞳を潤ませ、その視線で俺を好きだと言っている先輩に、俺は腹が立った。
どうしてそんな顔をしているのに、アイツの彼女のままなの。
なんで自分の気持ちに気づいてくれないの。
俺は考えるよりも先に衝動のまま、先輩の口を俺の口で塞いだ。
突然俺にキスをされたことによって、先輩がまたその愛らしい目を大きく見開く。
「ち、ちは…んんっ!」
俺の名前を呼ぼうとし、開かれた先輩の口に、俺は舌を無理やり入れた。
俺に口内を蹂躙される先輩から、甘い吐息と声が漏れる。
恥ずかしそうにキツく瞼を閉じ、なされるがままの先輩だが、何とか俺の胸に両手を当て、俺から離れようと弱々しく抵抗していた。
ああ、何と愛らしいのだろうか。
先輩の一瞬一瞬があまりにもよくて、目を開けたまま、先輩を好きなようにする。
角度を変え、動きを変え、一度離れて、またキスを落とす。
満足するまで、ずっと先輩にキスの雨を降らせ続け、俺はやっと先輩を解放した。
「ち、ち、はる、」
涙目でこちらを見ている先輩の瞳には、確かに怒りがあるが、それ以上に俺への愛がある。
決して俺を突き放せない、嫌いになれないといった感情がそこにはある。
「こうやってキスしたいのも、そこの名前に嫉妬するのも、親に求める愛と一緒?」
抗えない想いを抱く先輩に、俺は怪しく笑った。
俺の最愛の人。どうか俺を選んで。
俺には柚子先輩だけだから。



