推しに告白(嘘)されまして。





ああ、やっぱり先輩はかわいいな。
「好き」という言葉一つで、こんなにもかわいい反応をしてくれるなんて。何回でも言いたいな。

愛おしくて愛おしくて仕方のない存在から目を離せずにいると、そんな存在は「んんっ」と咳払いをして、やっと口を開いた。
努めて冷静を装って。



「…千晴のそれは自分の面倒を見てくれる人が好き、だもんね」



は?

先輩からの思わぬ言葉に、一気に暗い感情が広がっていく。
自分に言い聞かせるような先輩の言動に、微かな怒りと落胆を感じた。



「違うから」



先ほどとは違い、地を這うような低い声が俺から漏れ出る。



「正義の人な先輩が好き。誰にでも平等で、手を差し伸べられる先輩が好き。誰よりもまっすぐな先輩が好き。俺のことをただの俺として見てくれる先輩が好き」



淡々と、だが、切実に俺は先輩への想いを紡ぐ。

ーーーどうか、俺の本気に応えて。

綺麗な先輩の黒髪の隙間から覗く、意志の強そうな瞳。
しかし、その瞳はこっちをまっすぐ見ることなく、恥ずかしそうに伏せられていた。
先輩の愛らしくて綺麗な顔に、まつ毛が暗い影を落としている。

それから先輩は自身の頬を両手で包んで、言いにくそうに視線を上げた。



「…千晴は勘違いしているだけだよ。私のような人が今までいなかったからそう思ってしまっただけ。親に求めるものと一緒だよ」



先輩の言葉が俺をまた暗くさせる。
俺を救うのも、俺を破滅させるのも、全部先輩だ。



「それ、本気で言ってる?」



気がつけば俺は先輩の腕を乱暴に掴んでいた。
それから傘をその辺に放り投げて、有無を言わさず、その辺の路地へと先輩を連れ込んだ。