side千晴
俺の大好きな先輩。
俺だけの先輩。
小さくて、でも中身はずっと大きくて広い先輩が、俺と一緒に歩いてくれている。
俺は本当は今日、傘を持っていた。
電車ではなく、普通に車で帰る予定だった。
だが、少しでも先輩と一緒にいたくて、俺は先輩に嘘をついた。
それでも先輩は、俺の嘘に気づいていない。
疑おうとさえしていない。
まっすぐ俺を見て、例え困ったように一度、俺から目を逸らしても、やっぱり助けてくれる。
誰にでも平等で、優しくて、正義の人。
そんな先輩が愛おしくて、愛おしくて、仕方ない。
しかし、そんな先輩を愛おしく思うたびに、仄暗い感情が俺を支配した。
誰にでも優しくしないで。
俺だけを見て。
俺だけに手を差し伸べて。
ーーーその愛らしい瞳に俺以外を映さないで。
そういった欲望が当たり前のように俺の中に渦巻く。
だから俺はその欲望を叶えるために、先輩の外堀を埋めることにした。
そして、少しずつでも異性として意識してもらえるように、俺が先輩に恋焦がれる男であることを行動で示した。
その結果、外堀は埋められ始め、先輩は確かに俺に惹かれ始めた。
先輩をずっと見てきたのだ。
先輩の変化なら、ほんの少しのものでもわかる。
少しずつ先輩の心が俺に揺れ、その眼差しに俺と同じ熱が帯び始めていることに、俺は気づいていた。
何もかも完璧で順調。
あともう少しで先輩は俺だけの先輩になる。
ーーーそう思っていたのに。
先輩の形だけの彼氏、沢村悠里が本気で先輩のことを好きになってしまったのだ。
さらにアイツは俺と同じように、先輩の外堀を埋め始めた。
憧れと恋の区別がつかない先輩。
そんな先輩を囲って、本当を見せないようにして。
アイツのせいで先輩が俺に堕ちてくれない。



