推しに告白(嘘)されまして。






「先輩?近くにいないと濡れるよ?」



おかしそうに私を見て、千晴が私の肩を抱き寄せる。
突然縮まった距離に私の心臓はドクンッと大きく跳ねた。

抱き寄せられた肩に感じる私よりもずっと大きな手。
雨の中、微かに私の鼻に届く千晴の爽やかで優しい香り。
千晴はただの後輩のはずなのに、どうしても千晴の全てを意識してしまう。
ただ距離が近いだけだというのに。

最近ずっと心臓がおかしいのは、本当にただの病気なのだろうか。
治らない苦しさに、私はそんな疑問を抱いた。



「先輩、今日はずっとそれなの?」



ふと、千晴が面白くなさそうな声音で、私にそう問いかける。
〝それとは?〟と一瞬思ったが、千晴の視線の先が、私の着ている体操服だったので、私は千晴の問いかけの内容をすぐに理解した。



「うん。私も今日、傘忘れてさ。悠里くんが貸してくれたの」



ふふ、と嬉しそうに笑う私に、千晴が「ふーん」と冷たく答える。
自分から聞いてきたくせに、なんとも冷めたリアクションだ。
だが、そんな千晴に私は特に何も思わず、話を続けた。



「それで私は千晴をどこまで送ればいいの?今日は車?それとも電車?」

「今日は電車」



無表情のまま千晴は私にそう言い切る。
それから徐に制服からスマホを取り出し、触り始めた。

伏せられた視線に私は思った。
千晴が電車とはなんと珍しいのだろうか、と。

千晴が車で帰るのならば、そこの校門で別れることになるが、電車で帰るのなら、駅まで一緒ということだ。

それまでこの状態か…。

続く沈黙に、急にまた千晴を意識してしまい、私の頬は一気に熱を持った。
な、なんで…。

ただの後輩のはずなのに、心臓がうるさくてうるさくて仕方ない。
感じたことのない動悸にどうすればいいのかわからなくなった、その時。



「ねぇ、先輩」



どこか恋焦がれるような甘い千晴の声が、この沈黙を破った。