「…」
でかい。
私よりも遥かに高い身長の持ち主に、純粋にそう思う。
かなり頑張らなければ、普通に千晴が濡れてしまう。
進行方向を見つつも、千晴を気にして腕をあげ続ける。
そうこうしていると、上から「…クスッ」とおかしそうな千晴の笑い声が聞こえてきた。
「…先輩、何やってんの。傘、持つのは俺でしょ?」
そう言って千晴が私からひょい、と傘を奪う。
千晴はもちろん私よりも身長がうんと高いので、腕をあげることなく、普通に傘を持った。
そんな千晴に私は「…ありがとう」とお礼を言った。
周りにいる生徒たちの視線を感じながらも、千晴と引き続き、並んで歩く。
「ねぇねぇ、あれ見て…っ。千晴くんと鉄子先輩じゃん…っ」
ある女子生徒は私たちの姿を見て、興奮している様子で、
「やっぱり付き合ってんだな、あの2人」
ある男子生徒は納得したように、
「ゆ、悠里くんがいるのにっ。酷いっ」
そしてある生徒は恨めしそうにこちらを見ていた。
…やはり、こうなってしまったか。
予想通りの展開に思わず、苦笑いを浮かべる。
同じ傘を共有することによって、普段以上に近い千晴との距離に、私はただただ〝近い〟と思った。
同じ傘を共有する以上、仕方のないことではあるが、この距離感もいけないのかもしれない。
もう家に帰るだけだし、少しくらい濡れてもいいか。
そう考えた私はそっと千晴から距離を取ろうとした。
だが、それは千晴によって簡単に阻止された。



