推しに告白(嘘)されまして。






「傘入れて、先輩」



それからねだるような千晴の甘い声に、私は膝から崩れそうになった。

ち、千晴を周りの目とか気にせず、傘に入れてあげたい。

まるで捨てられた子犬のような千晴をどうしても放っておくことができない。
しかし、ここで折れてしまっては元も子もないので、私は心を鬼にして、千晴を見た。



「私の傘じゃなくて、他の人の傘に入れてもらいなさい」



わざと冷たい表情を作り、千晴にそう言い放つ。
その瞬間、私たちの周りにいた生徒たちがわかりやすく、ザッと離れた。

…ああ、私から見ると捨てられた子犬に見える千晴でも、生徒たちから見ればとんでもなく怖い狂犬なのだった。
こんなにも怖がる必要なんてないのに。
千晴は理由もなく相手を噛むことなんてしないし、いいところだってたくさんあるというのに。

千晴の置かれている状況に、私はなんとも言えない気持ちになった。
そして当の千晴はというと、生徒たちの動きを見て、「…濡れて帰るしかないかな」と、どこか悲しげな表情でポツリと呟いていた。

普段何があっても飄々としている千晴の弱々しい姿に、胸がとんでもなく痛くなる。

ゔぅ、もう限界だ。
生徒たちにとっては怖い狂犬でも、私にとってはただの子犬なのだ。



「…私の傘に入りな、千晴」



気がつけば私は弱々しい笑顔で千晴にそう言っていた。

私の言葉に千晴は「やった」と嬉しそうに笑い、傘に入ってくる。
そこには先ほどの弱々しさはなく、いつもの調子を取り戻した千晴に、私は少し安堵した。

それから私たちは一つの傘をシェアして、下駄箱から外へと出た。
屋根のない場所へと移動した為、バシャバシャと傘を叩く雨の音が上から聞こえる。

そんな中、私は必死に腕をあげ、何とか千晴を同じ傘の中に収められるように、傘を傾けていた。