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「…はぁ」
三限目での出来事を思い出し、深いため息をつく。
三限目の次は四限目なのだが、四限目は移動教室だ。
その為私は1人で廊下内を移動していた。
雪乃は何やら用事があるらしく、別行動中だ。
疲れからトボトボと歩きたい気持ちでいっぱいなのだが、そんな歩き方では鬼の風紀委員長としての威厳は守れないので、私は意識して背筋を伸ばして歩いていた。
心はヘトヘトだが、パッと見はいつもの強そうな鬼の風紀委員長、鉄子、なはずだ。
確かな足取りで廊下内を歩いていると、今日ずっと聞こえてくる生徒たちの話題が耳に入ってきた。
「て、鉄子が悠里の体操服着てる…っ。さすが、正妻…っ」
小さく、だが興奮気味にそう言ったのは、男子生徒だろうか。
彼に続く形で周りの生徒は好き勝手にいろいろなことを言い始めた。
一応、私には聞こえないように小さな声で話す、という配慮をして。
…全部聞こえているのであまりその意味は成してはいないが。
「千晴くんがいるのに鉄子先輩酷い…っ」
今にも泣き出してしまいそうな女子生徒の声に、
「鉄子先輩は元々悠里先輩の正妻。当然の対応だね」
当然だと頷いている様子の女子生徒の声が聞こえる。
それから、「あれは浮気?」「違うよ、公式」「どっちも鉄子先輩の彼氏」と、あることないこと好きなように生徒たちは言っていた。
んー。これは思っていた以上に深刻なのかもしれない。
生徒たちのリアクションに呆れると同時に、頭が痛くなる。
田中の忠告はまさに必要なものだったのだ。
今、学校内では過去最高に私がどちらの彼女なのか疑問に思われ、本気で千晴と付き合っている、と思っている者もいるようだった。
これでは、風紀委員長である私が率先して、風紀を乱している状況になる。
一番あってはならない状況だ。
…私は正真正銘、悠里くんの彼女なのにどうしたら、千晴も彼氏or千晴が本当の彼氏疑惑を払拭できるのか。



