「着替えはある?」
「…いや、ないから保健室に借りに行く」
真剣に、だが、優しく悠里くんに問いかけられて、私は視線を伏せながらも何とか答える。
すると、そこで悠里くんは黙った。
突然訪れた沈黙に、どうしたのだろう?、と私は首を捻る。それからおそるおそる視線を上げると、そこには何かを思案する悠里くんがいた。
伏せられたまつ毛によって、かっこいい悠里くんの顔に影が落とされている。
悠里くんのかっこいい顔をじっと見つめながらも、次の言葉を待っていると、悠里くんは徐に口を開いた。
「…じゃあ、俺の体操服使って?」
「へ?」
こちらをまっすぐと見つめる優しい悠里くんの声音に、思わず変な声が出る。
今、悠里くんは何て言った?
俺の体操服を使って?
え?
「ぜひ!あ、いや、違う!」
つい欲望に身を任せて、勢いよく返事をしてしまったが、私は慌てて首を横に振った。
悠里くんの体操服着たすぎるけど、普通にダメでしょ!?
「か、借りれないよ!悠里くんの尊い体操服なんて!悪いし!何より悠里くんが体育の時に着る服がなくなるじゃん!」
私から必死に紡がれた言葉に、悠里くんは「尊い体操服?」と不思議そうに首を傾げる。
その姿があまりにもかわいらしくて、心臓がうるさいが、メロついている場合ではない。
推しから推しの体操服を奪うという行為を決して許してはならないのだ。



