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バレンタインからあっという間に時は流れ、三月。
三学期の終わりが見えてきた今日この頃。
放課後の風紀委員室で他の風紀委員たちと仕事をしていると、ガチャリと扉が開かれた。
「邪魔するぞ」
そう言って風紀委員室に現れたのは、生徒会長だ。
2年の進学科でクラスメイトでもある生徒会長、田中は、ファイルを抱えて、まっすぐとこちらまでやって来た。
綺麗にセットされた黒髪に、ふちのない眼鏡。
きちんと着こなされた制服はまさに生徒に見せたい見本そのものだ。
真面目が服を着ているような彼と私は馬が合い、生徒会長と風紀委員長という立場上、よく話をする仲でもあった。
「どうしたの、田中。何か不備でもあった?」
いつもの調子で書類から視線を上げ、田中を見る。
すると田中はそんな私に何故かとても難しい顔をした。
一体、何が田中にあんな顔をさせているのか。
不思議に思いながらも田中の言葉を待っていると、田中は私の目の前にファイルの中にあった紙をバサァッと、何十枚も広げた。
「これを見ろ。目安箱に入れられていたものだ」
田中が眼鏡の奥で、私に鋭い視線を向ける。
その視線の意味が全くわからず、私は首を傾げたが、とりあえず目の前に広げられた紙を手に取ってみた。
目安箱とは、名の通りのもので、生徒たちの要望や悩みなどを匿名で聞くものだ。
ちょっとした不憫なこと、部活であればいいこと、校則の改善案など、入れられる意見はさまざまなのだが、私が手に取った紙にはそんなことは書かれていなかった。
『鉄子は誰と付き合っているの?千晴くん?悠里くん?』
「…ん?」
紙に書かれていたまさかの内容に見間違いか、と自分の目を一瞬疑う。
…なんだ、これ?
ふざけているようにしか見えない内容の紙を一度机に置き、他のものにも目を向けてみる。



