「いや、謝らないで、柚子。俺が勝手に嫉妬しているだけだから」
「あ、謝るよ…。私なんかが悠里くんを煩わせるなんて許されないよ」
「なんかじゃない。柚子は俺の大切な彼女。大切だからこそ、煩わされるんじゃん」
「は、は、はぅあ…」
真剣な顔で、だが、どこか焦がれるようにまっすぐと私を射抜く悠里くんに、思わず変な声で返事をしてしまう。
良すぎて悠里くんのことを直視できない。
一体、いくら払えば、〝大切な彼女〟と毎日言ってもらえるのだろうか。
そういうサブスクはないのか。
悠里くんに〝大切な彼女〟と言ってもらえるサブスクが。
もう悠里くんしか見えなくて、ふわふわと夢心地でいると、「ねぇ」と面白くなさそうな千晴の声が私の耳に辛うじて入ってきた。
「俺もいるし、なんならここ下駄箱前だからたくさんの生徒もいるんだけど。公衆の面前で2人だけの世界にならないでよ」
「…っ!!!!」
千晴の指摘に、私は慌てて意識を覚醒させる。
それから急いで周りを見れば、全員がサッと私から視線を逸らした。
つまり、逸らす前はこちらを見ていたということだ。
な、な、な、何ということだ!
生徒の目がある場所で、悠里くんに骨抜きにされてしまうとは!
泣く子も黙る、鬼の風紀委員長として、真面目な姿をなるべく見せようと普段から意識しているのに!
これでは推し活に勤しむ、ただの女子高生ではないか!
推し、恐ろしい!
「い、行こう!悠里くん!帰ろう!じゃあね、千晴!」
これ以上、恥ずかしい姿は見せられない、と慌てて、私は声を上げる。
そのままギクシャクしながらも、千晴に手を振ると、千晴は何故かどこか愛おしそうに柔らかく微笑み、「じゃあね、先輩」と言った。
「華守」
そんな千晴を悠里くんが真剣な声で呼ぶ。
「…確かに柚子の最初の手作りチョコを食べたのは華守かもしれないけど、柚子が初めて本命に渡す手作りチョコを食べられるのは俺だから」
それから悠里くんは強い瞳でそう千晴に言い放った。
千晴は何も言わないが、どこか面白くなさそうだ。
睨み合っているようにも見える2人に、私は頷いた。
「確かにそうだね」
淡々とした私の言葉に悠里くんは嬉しそうに瞳を細め、千晴は不愉快そうに眉をひそめた。
正反対な2人に私は2人の相性はやはり最悪だ。会わせない方が絶対にいい。と思ったのだった。



