「…悠里くん、バレンタインは私の手作りがいいって言ってたでしょ?でも、私の手作りなんて悠里くんにあげたら、最悪悠里くんが三途の川を見ることになるって、私、ずっと悩んでたんだよね。そしたら千晴が提案してくれたんだ。千晴の妹ちゃんの千夏ちゃんと一緒にチョコを作ればって」
そこまで言って、改めて悠里くんを見てみる。
すると悠里くんの笑顔からあの圧がほんのり和らいでいる気がした。
そもそも圧を感じていることさえも、気のせいな気がしてきた。
…うん、きっと気のせいだ。
優しい悠里くんに限って、私に謎の圧をかけるなんてあり得ない。
私の勘違いで決まりだろう。
やっと気づいた自分の勘違いに、私はほっと一息ついた。
それから冷静なまま続けた。
「千夏ちゃんのおかげで失敗することなく、健康面でも被害の出ないチョコができたの。だからぜひ、食べて欲しいな。そのお礼で千晴にもチョコをあげたんだよ」
ついに全てを伝え終え、悠里くんに柔らかく笑う。
そんな私に悠里くんは「…なるほど」と納得したように神妙な顔つきで頷いた。
そして少し考えてから、どこか言いづらそうに、ゆっくりと口を開けた。
「ごめん、俺、かっこ悪いこと言うんだけど、本当は一番に柚子の手作りチョコが食べたかったんだ。できれば、俺だけが食べたかった。誰にも食べさせたくなかった」
寂しそうに笑い、気まずそうに視線を伏せた悠里くんに、ドキューン!と心臓が射抜かれる。
で、出た…、ラ、ラブテロリストだ…。
悠里くんが今まさに嫉妬しているのだと思うと、辛そうな姿に胸が痛くなるが、その愛らしい独占欲に、ついときめいてしまった。
苦しんでいる相手にときめくなんてあり得ないし、言語道断だというのに。
「ご、ごめんね、悠里くん。そうとは知らずに私…」
気持ちを切り替えて、私は悠里くんに申し訳なさそうに眉を下げる。
だが、悠里くんはそんな私を責めることなく、私と同じような表情を浮かべた。



