「先輩からのチョコ、めっちゃ美味しかったけど、一番美味しかったのは、先輩から直接食べた先輩の口についてたチョコだったなぁ」
「は、はぁ!?」
なんでもないことのように紡がれた千晴の言葉に、私はその場で叫ぶ。
なんてことを言ってるんだ!コイツは!
「あれは口じゃなくて、口の横!語弊がある言い方はやめなさい!」
確かに千晴は私から直接チョコを食べた。
だが、それは私の口からではなく、口の横からだ。
千晴の言い方では、まるで私たちがキスしたみたいではないか。
顔を真っ赤にして千晴を鬼の形相で思いっきり睨む。
すると千晴は楽しそうにその綺麗な瞳を細めた。
「どっちでも同じじゃん?美味しかったなぁ、先輩のく・ち・び・る」
「バッカ!せめてチョコと言いなさい!チョコと!」
恥ずかしさと怒りで、もうおかしくなりそうだ。
頬に集まる熱に、眉間に入っていく力。
千晴を睨む瞳には、激しい羞恥と怒りの感情がこれでもかというほど込められており、まさに般若のような顔に私はなっていた。
ーーーそんな時だった。
突然私の視界が何者かによって奪われた。
「…ふぇ!?」
思わぬ展開に、変な声を出してしまう。
しかし反射的に反撃しようとしなかったのは、その何者かが、私の推しである悠里くんだったからだった。
鼻に届いた柔らかくも優しい香りが悠里くんだと教えてくれた。
後ろから何故か抱きしめるように悠里くんが私の目を覆い隠している。
わけのわからぬご褒美すぎる状況に、私はどうしたらいいのかわからず固まった。
「…そんなかわいい顔、俺以外に見せないで」
悠里くんがそう私の耳元で囁く。
懇願するような切なげな声に私の心臓は小さく跳ねた。
か、かわいい…?
私の今の顔が…?
怒りで震え上がっている般若顔が…?
バクバクとうるさい心臓をなんとか抑えて、平然を装う。
すると、私の耳にどこか暗く、けれども甘い声が届いた。



