「先輩のチョコ、なかなか美味しかったでしょ?あれ、うちで作ったんだよ?それで最初に食べたのが俺ね?」
ふふ、と笑い、少しだけ千晴が顎を上げる。
まるで見下すようなその視線に、私は思わず千晴の頭をぱちん、と軽く叩いた。
「悠里くんに対して頭が高いわ。変なことで偉そうにしない」
「えー。別に変なことじゃないし、重要なことでしょ?」
「どこも重要じゃないけど?」
睨む私に、千晴がおどけたように笑う。
全く価値観のわからない男だ。
「でも俺は初めて先輩の手作りチョコをもらった男だよ?大事な初めてをもらったのは俺」
「…お父さんをカウントしなければの話ね」
「うん。だからやっぱり俺が最初の男じゃん」
呆れたように千晴を見れば、千晴はどこか怪しげに色っぽく微笑んでいた。
…これは私の初めての手作りチョコをもらった話をしているんだよね?
別のものの話はしていないよね?
「彼氏さんは初めての男じゃないもんねぇ。しかも俺の前でチョコ作ってくれたんだよ?最高でしょ?」
「…」
ニヤニヤと笑う千晴に、悠里くんはずっと黙っていた。
その表情は未だに曇っており、どこか不愉快そうだ。
推しにあんな顔をさせるだなんて、なんと罪深い男なのだ、千晴。
もう許せない、と、千晴に何か一言物申そうと私は口を開いた。
…が、それは続く千晴の言葉に遮られた。



