「私が悠里くんの家に渡しに行くよ、チョコ。元々そうする予定だったし」
「でもそれだと二度手間だよね?だからこのまま俺が取りに行くよ?」
「いやいや、そうしたら、逆に悠里くんが二度手間になるじゃん。だから私が渡しに行く」
「二度手間とか気にしなくていいよ?俺がそうしたいだけだし…」
「気にします」
困ったように笑う悠里くんに、私はキリッとした表情を作る。例え、私の推しである悠里くんからのお願いでもこれだけは譲れない。
絶対に推しの誘惑には負けないぞ!と強い気持ちで、悠里くんを見れば、悠里くんは引き続き、困ったように笑っていた。
その姿があまりにもいじらしくて、ぐらぐらと私の中の決意が揺らぐ。
ま、負けない!推しの誘惑には負けない!
「せーんぱい」
眉間に力を込め、誘惑に耐えていると、気だるげな聞き慣れた声が聞こえてきた。
その声のおかげで私の中を支配していた、推しの言うことは何でも聞きたい欲がパーンッ!と弾け飛ぶ。
救世主でもある声の方へと視線を向けると、そこには嬉しそうに瞳を細める千晴が立っていた。
「先輩、昨日はチョコありがと。美味しかった」
私と目の合った千晴が改めてふわりと笑う。
そんな千晴に、悠里くんは「…え」と表情を曇らせた。
「…あー。先輩の彼氏さんじゃん」
今、悠里くんの存在に気づきました、と言いたげな態度で、悠里くんを見て、千晴が意味深な笑みを浮かべる。
それからどこかおかしそうに口を開いた。



