推しに告白(嘘)されまして。





「悠里くんとお父さんと…」



そこで一旦、言葉を止めて、箱に巻き付けたリボンをギュッと結ぶ。
それから視線を上げて、ある場所へと視線を向けた。



「そこにいる私の後輩に」

「え」



私の言葉に千晴が珍しく、目を白黒させている。
まさかここで自分の名前が出るとは、夢にも思っていなかったようだ。

優雅に椅子に腰掛けていた千晴は前のめりになり、「本当?」と信じられない様子で私を見た。



「本当」



それだけ言って、今まさにラッピングし終えた箱を持ち、千晴の元へと向かう。
私の手の中にある金色のリボンが巻かれた白い箱。
ちゃんと千晴のことを考えて選んだものだ。



「ずっと見てたからわかってると思うけど、これはほぼ千夏ちゃん作だから…。それでもよかったら…」



何だか照れ臭くて、千晴から視線を逸らしてしまう。
頬に熱まで感じて、何故こんな感覚になっているのか自分でもわからない。

これは今日のお礼のチョコだ。
ただの後輩へ渡すものだ。
こんな感情になるものではないはずなのに。

ズイッと千晴に箱を差し出すと、千晴はそれを受け取った。



「ふふ、ありがとう」



私の耳に千晴の柔らかい声が届く。
その声があまりにも嬉しそうで、ゆっくりと視線を千晴へと戻すと、千晴は本当に幸せそうに瞳を細め、笑っていた。



「…こういうの初めて?誰かに手作りのバレンタインチョコあげるの」

「ん?んー。まぁ、お父さんをカウントしなかったら初めてだね」

「そっか…」



私の答えに、千晴がますます嬉しそうにその瞳を細め、どこか愛おしげに私が渡した箱を見る。
それからゆっくりと、優しく箱を撫で、口元を緩めた。



「また先輩の初めてもらえた」



ふわりと笑う千晴に、ドクン、と小さく心臓が跳ねる。
整った美しい顔が何故かいつもよりもキラキラと輝いて見え、眩しくて、体の芯が熱くてふわふわした感覚が徐々に私の中で広がっていく。

な、何だろう、これ。

今は別に千晴との距離が近いわけでもない。
当然、今日の鬼門であった料理ももう終わっている。
それなのに心臓がどんどん加速していく。