ずっと悲しそうな表情を浮かべる悠里くんに、私の声はどんどん弱くなっていく。
本当は強く突っぱねたいのだが、それがどうしてもできない。
まるで子犬のような悠里くんの視線に、私は頭を抱えた。
推しが可愛すぎて、辛いです。
「…柚子が料理が苦手なことはもちろん知っているよ。今、俺が柚子を困らせていることも。けど、それでも柚子の手作りが欲しいんだ」
きっと意図せず作られた上目遣いは何よりも切実で、心臓が加速する。
あまりにも可愛らしすぎる推しに、私の体温は一気に上昇した。
「ダメ、かな…」
ふい、と悠里くんが寂しそうに視線を伏せる。
震えているような長いまつ毛に、ついに私は限界を超えてしまった。
「つ、作りましょう…。悠里くんのために」
気がつけば私は真剣な顔で深く頷いていた。
負けた、推しの健気さに。
*****
「先輩」
「…っ!?」
大変なこと、つまり、手作りバレンタインを用意しなければならなくなった経緯を思い浮かべていると、先ほどまで誰もいなかったはずの私の目の前に、千晴が現れた。
千晴の突然登場に私は驚きで危うく椅子から転げ落ちそうになる。
きゅ、急に現れるとは、なんと心臓に悪い。
千晴は忍びか、殺し屋なのか。



