「すると、何ということでしょう。呪いが解け、白雪王子が目を覚ましたのです」
それから今度は千晴が、ナレーションに合わせて、ゆっくりと上半身を起こした。
「素敵なお方、どうか私と結婚を…」
そんな千晴の手を取り、私は続ける。
しかしナレーションの途中で、何故か千晴は私に迫ってきた。
吐息が当たるそんな距離。
そこからまっすぐと千晴に私の瞳を覗かれて、ゆっくりと唇が当たる。
私のおでこにも確かに当たったあの熱だ。
「…っ!」
キスされた。
数秒して、私はやっと状況を理解した。
一瞬だけ触れた唇は、熱を帯びたまま、名残惜しそうに離れていく。
「「「ぎゃ、ぎゃああああ!!!!!」」」
次に会場を包んだのは、殺人事件でも起きたのではないか、と思うほどのとんでもない叫び声だった。
間違いなく、数名は倒れいてるのでは?と心配になる熱を背中に確かに感じる。
この千晴の突然の行動に、ここまで予定通り進められていたナレーションも、さすがに止まってしまっていた。
そして私は顔を真っ赤にして固まっていた。
千晴は満足げに私を見て、舌をぺろりと舐めている。
その姿にまた会場がとんでもない叫び声をあけだ。
「お、おおお、王子は!白雪王子は!キ、キスで!お姫様の気持ちに答えたのでした!末長くお幸せに!2人は結婚します!」
興奮気味にアドリブを効かせたナレーションが会場中に響き渡る。
「おめでとう!白雪王子!」
「ありがとう!ありがとう!」
「最高だった!」
それから観客たちはスタンディングオベーションでその感動を叫び、幕はゆっくりと下ろされていった。



