「オムレツが一番人気、かな?」
「じゃあ、それをお願いします」
ふわりと柔らかく笑った悠里くんに私は迷いなく、ゆっくりと頷いた。
私の答えに「かしこまりました。少々お待ちください」と接客モードで優しく微笑み、悠里くんがその場から離れる。
本当に、ほんとーに眩しすぎて、直視できない。
サングラスを持参しなければ。
悠里くんの素晴らしさ、尊さ、眩しさ、そしてメロさ、全てにやられながらも、改めてメニュー表に目を向けると、とんでもない文言が入ってきた。
オムレツ 800円と書かれている下。
そこに小さな文字で、〝オムレツを持ってきた吸血鬼がアナタへメッセージを書きます♡〟と書かれていたのだ。
私のオムレツはおそらく悠里くんが持ってきてくれる。
つまり、悠里くん直々に私にお言葉をくれるということだ。
お、推しからのお言葉…。
推しからお言葉!?
まさかすぎる展開に思わず、目を見開き、今一度、その文字を凝視する。
見間違えではないかと、穴が開くほどその文字を見るが、やはりそこには、オムレツを持ってきた吸血鬼がメッセージを書く、と書かれていた。
「お待たせいたしました」
表では何とか冷静を装い、心の中では大興奮している私に、丁寧な態度で悠里くんが現れる。
悠里くんの手にはオムレツがあり、そのオムレツにはまだケチャップがかかっていなかった。
おそらく、これから悠里くん自らの手でケチャップをかけてくれるのだ。
一体、どんなメッセージを書いてくれるのだろうか。
ありがとう、とか、めしあがれ、とかかな。
ドキドキしながらも、じっとオムレツを見つめる。
一文字だって、書かれる瞬間を見逃したくない。
その為に、私は瞬きさえもやめた。
オムレツを机の上に置き、ケチャップを手に取った悠里くんが早速一文字目を書き始める。
まずは、『大』。
それから『ス』。
最後に、『キ』。
「…どうぞ」
ケチャップで文字を書き終えると、悠里くんは照れくさそうにこちらを見て、そっと私の前にオムレツを置いた。
「…」
それを私はじっと凝視する。
『大』『ス』『キ』。
「…」
大スキ。
大スキ。
大好き!?
悠里くんからのまさかの甘いお言葉に思わず、叫びそうになる。
ただでさえ、メッセージをもらえるだけでもとんでもないことなのに、大好きをもらえるとは!



