急に喋らなく…いや、喋れなくなった私を見て、沢村くんは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「…あ、いや、ごめん。私ばかりがずっと喋っていたから…。沢村くん嫌な気分になってない?」
「ん?何で?自分のこと褒められているのに嫌な気分になるわけないよ」
申し訳なそうにしている私に沢村くんが優しく笑う。
それから「でも、ちょっとだけ恥ずかしいはあるかも」と照れくさそうに私から視線を逸らした。
そのタイミングで、またまた少しだけ赤い沢村くんの耳が目に入る。
そのことに気がついた時、私は思った。
推しが可愛すぎる、と。
そんなことを思っていると、沢村くんが突然、少し改まった様子で私を見た。
「…あの鉄崎さん」
こちらを伺うように、けれど、まっすぐと見つめる沢村くんの頬は先ほどとは違い、ほんのり赤い。
どこか言いづらそうにしている沢村くんに、私はその先の言葉が気になった。
一体、沢村くんは私に何を言いたいのだろうか。
「お願いがあるんだけど。いい?」
「お願い?」
全く予想していなかった沢村くんからのお言葉に、今度は私が不思議そうに首を傾げる。
だが、私はすぐに「もちろん」と頷いた。
推しからのお願いに応えないわけがないではないか。
どんなことだって叶えてみせる。絶対に。
「…名前で呼んで欲しいんだ。俺のことも」
「…へ」
名前で呼んで欲しい?
私よりもずっと身長の高い沢村くんが、伺うように上目遣いでこちらを見ている。
絶対に狙ってそうしていないことはわかっているのだが、とてもとてもそれがあざとく見えて仕方がない。
まるで子犬のような沢村くんに私の脳内は爆発した。
目の前に大きな大きな可愛い子犬がいる。
すごくすごく可愛い。
抱きしめたい。



