「…は、華守…くんは何でここにいるの…。しかも華守学園の選手で」
拾ったボールを華守に渡しながらも、華守に対して、今まさに疑問に思っていることをそのまま俺は口にする。
「柚子先輩にかっこいいところ見せたいから」
すると華守は至極当たり前ように淡々とそう答えた。
欲しかった答えとは微妙に違う華守の答えに、違うと思うよりも、モヤモヤした感情が勝ってしまう。
そのモヤモヤの原因がなんなのかはよくわからないが。
そう思っている間に華守はさっさと俺の側から離れ、華守学園側へと自然な流れで戻っていった。
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アップが終わり、いよいよ、練習試合開始時刻となった。
整列して挨拶した後、両校のスタメンメンバーだけが、コート内に残り、各ポジションへとつく。
その中には当然、華守もおり、どうしても目に付いた。
もちろん、俺もスタメンとしてコート内に残っていた。
…ダメだ。これから試合だっていうのに、華守の存在がどうしても気になって、集中できない。
『柚子先輩にかっこいいところ見せたいから』
先ほどまさにそこで言われた華守のセリフが、頭から何故か離れない。
何が印象的でそうなのか全くわからないが、このセリフが浮かぶたびにモヤモヤが募っていく。
華守のことなど考えている場合ではない。
鉄崎さんが試合を観に来てくれているのだ。
試合に集中し、当初の目的通り、鉄崎さんに〝かっこいい〟と思ってもらわないと。
そう思いながらも、チラリと2階のギャラリーにいる鉄崎さんの方へと視線を向けると、そこにはこちらを見ていない鉄崎さんがいた。
鉄崎さんの視線の先には、鉄崎さんに軽く手をあげる華守がおり、鉄崎さんはそんな華守に苦笑しながらも手を振っていた。
遠目からでも鉄崎さんが、苦笑しているが、どこか優しい目をしていることがわかる。
…これじゃあ、どちらが鉄崎さんの彼氏かわからないな。
2人の姿を見て、俺の気持ちは一気に重たくなった。



