あなたがいてくれるから



「─あ、いた。杜希〜」

彼らが向かった方角から、杜希がさっき目で追っていた店を探す。
何店舗かあったけど、向こうの方面は1店舗だけだから……そう思いながら、店の試着室の前に行くと、杜希が足組んで、椅子に座っていた。

「…………何してんの」

「え?着替えて貰ってる」

「や、試着室だからそうだろうけど……え?」

「ここは、本店が俺の行きつけだから」

「……意味わかんねぇ〜」

相変わらず、自由人。
学校とは大違いの杜希は、本格的なハンガーラックに掛かった大量の服を眺めながら、

「やっぱ、あのシャツも欲しいな」

とか、

「ここは、締め色として……」

とか、

「葵咲の格好に合わせて……亜希に聞くか」

と、ブツブツ言いつつ、楽しそうな横顔。

「─着替えたか、凛空」

そして。

「お〜……」

……もう既に疲れきった顔をしている、凛空。
試着室から出てきた凛空の顔が可哀想。
だが、格好や髪型は間違いなく、葵咲の好み。

相変わらず、ファッションセンスが良すぎるヤツ……と、杜希の実家を思い返しつつ、

(見た目は派手だが、中身……喧嘩好きとか、短気な点を除けば、まあ……にしても、こんなにファッションを楽しむ人間に育つなんて、昔の奴からは誰が想像できただろう)

適当な服で、適当に着回して、穴が空いても、色が落ちても気にしなかった男が、今や頭の先から爪先まで完璧に仕上げていて、その姿からはヤの職業なんて想像も……

「あの、ちょっと休憩……」

「次」

「…………はい」

……や、間違いなく、おじさんの子ども。
着替えた凛空の姿を写真撮ると、無情に告げた杜希の横顔は、杜希の親父さんにそっくり。

休む時間も与えない鬼は、凛空の顔が見えていないのだろうか。

「─杜希、休憩」

「え?」

「凛空の顔が死んでるから」

「……あ、悪い。飾り甲斐がある顔で」

「気持ちはわかるが」

綺麗な顔をしている凛空は、杜希の好み。
どのようなジャンルも着こなせる彼は、ファッション大好きな杜希にとっては逸材である。