■□ 死 角 □■


過去の夢の断片は突如として消えた。なんてことない、そこで目が覚めたのだ。

セットしたアラームの時間より30分程早い。けれど薄いカーテンの向こう側は明るくなっていた。ぼんやりとした視界の中、何となく……右手をかざし、アルコールランプで火傷したであろう場所を眺めた。けれど本当に些細な出来事で、痕に残る程でもなかったからきれいなものだ。

どうしてあの夢を見たのだろう。しかも強烈な記憶でもないのに、あの夢の断片だけはやけにクリアだった。
私は起き上がるとスマホをチェックした。陽菜紀からのメールは届いていない。そのことにちょっとほっとした。

それから三日間はこれといった出来事はなかった。仕事に行き、帰りに鈴原さんとコーヒーショップで待ち合わせて、一緒に帰る。そして鈴原さんは私を送り届けると、あっさりと帰って行く、の繰り返しだった。
三日の間で事件の進展もこれと言ってなかった。それが歯がゆくはあるが、事件のことはプロに任せる他ない。

そして迎えた土曜日。私の会社は基本、土日休みだから、この日も当然休みだった。久しぶりにゆっくり寝て起きると10時を過ぎていた。洗濯と掃除をして、簡単な昼食を作っているときだった。スマホが電話着信を報せた。

無機質な呼び出し音に一瞬ビクリとしたが、

“着信:優ちゃん”
となっていて、それに少しだけ驚いた。

優ちゃんから電話が掛かってくるのも電話で話すのもこれがはじめてだ。七年前の成人式でも番号交換しなかったけれど、前回、陽菜紀のお通夜で会った際何となく流れで交換したのを覚えている。

「もしもし…優ちゃん?」電話に出ると
『灯理ちゃん?ちょっと話したい事があるんだけど、今出てこられない?』

優ちゃんの声はくぐもって沈んでいた。沈んでいた、と言うよりちょっとばかり怒気が含まれているような気がしたのは気のせいだろうか。でも電話だし、いつもと聞こえ方が違うだろう、と言うことで片づけて

「うん、大丈夫だよ。どこに行けばいい?」私は手近にあるメモを手繰り寄せた。