■□ 死 角 □■


私の両親の場合も、やはり父が母の方をかなり好いていたよう。でも結婚して私と言う子供が出来ると母は変わったと言う。父はそのことで母や私を憎んではいなかったけれど、やはり変化はあったらしい。
それは小さなことの積み重ねだったけれど、蓄積したものは大きかったと言っていた。けれど父は外に女を作ることもなく、家庭を大事にした。そこが陽菜紀のご主人と違うところだ。まぁ陽菜紀の場合、子供が出来たと言うわけではないから状況も違うが。

会社経営者ともなるとそれなりに華やかな付き合いはあるのだろう。甘い誘惑はご主人にも及んだ、と考えれば納得がいく。
家庭に不満があったご主人が陽菜紀とは違う女に目を向けた、と考えれば至極自然なことだ。

けれどここで誤算がある?陽菜紀はご主人と離婚しなかった。だから―――殺した―――……?

動機と言ってしまえばとても簡単で私にも考え付くことだし、もしそうだとしたら刑事さんたちがきっとご主人のことを色々調べているだろう。そうなれば犯人逮捕も時間の問題だ。私があれこれ考えたって仕方ない。犯罪はプロに任せるべきよ。と考えが至って、ベッドに横たわる。

枕元に置いたリモコンで部屋の明かりを消そうとしたとき、ベッドに沿って置いてある小さな折りたたみのテーブルの上に四角の鏡が立ててあって、その中に自分が写り込んでいた。
シャワーを浴びた後、スキンケアやドライヤーをした際にそのままにしてしまったようだ。いつもはその鏡をカラーボックスの引き出しに仕舞い入れてある。元あった場所に戻そうと起き上がった際、鏡の中……私の背後で何かがゆらりと蠢いた。