鈴原さんと私のアパートまでたどり着いたが、でもこの後どうしていいのか分からなかった。
「お茶でも?」と言うのが良いのだろうか。でも軽々しい女と思われたくないし、かと言ってここまで親切にしてくれた鈴原さんを労いもなくあっさり返すのも人としてどうかと思われた。どうしようか悩んでいると
「それでは。また何かあったら連絡します。あ、もちろん灯理さんの方にも何かあったら連絡ください」と鈴原さんは爽やかに言ってあっさりと帰って行った。
色々考えていた自分が急にバカらしく思えた。一人アパートの部屋に帰り、その後は簡単に焼きそばを作って食べ、シャワーを浴び、ハーブティーを飲みベッドに着く。いつもと変わりない生活だったけれど、でも考えるのは陽菜紀のこと。
スマホはあれ以来、鈴原さん以外、誰からのメールも届いていない。鈴原さんと別れてから約20分後に
“今帰りました。何かあったら気軽に連絡ください”とあって、
“今日はありがとうございました。心強いです。また何か分かったら連絡します。おやすみなさい”とメールを打ち、どこか高揚した気持ちでしばらくの間スマホを眺めていた。
こんな心地良いドキドキ感をしばらく味わっていない。むしろしばらくではなく、私にとってははじめてだと言っていい。
だがしかし、慌てて頭を振る。今はメールが一体誰から送られてきたのか推測するのが先だ。
一番疑いの線が強いのは、やはり陽菜紀のご主人だ。
陽菜紀はいつご主人と知り合ったのか…を思い出す。確かはじめてご主人を見たのは陽菜紀の結婚式で、だ。あのとき招待客に小学校・中学校・高校時代の友人が私しかいなかったことに少し驚いた。結婚式はさほど規模がなく、家族式と言ってもいい程のものだった。あの華やかは陽菜紀がちょっと意外…と感じがしたが、後から聞くとご主人の方で、招待となるとものすごい人数になるらしいから、敢えて細々とすることにした、と言っていた。
結婚式の生い立ちムービーで確か、共通の友人の紹介と言われていたが、これまた後から聞いた話に寄ると合コンで知り合ったらしい。これも少し意外だった。
陽菜紀ぐらい可愛いのなら、何も合コンなんて行かなくても引く手あまたっぽいのに。
しかしその場で意気投合した二人はお付き合いをはじめることになる。お付き合いは一年ぐらいで、その後自然な流れで結婚に至ったという。この時点で何も不自然さは窺えない。
一年と言う早い期間で結婚した、と言う事柄を覗いてどこにでもいる夫婦のなれそめだ。しかしその後一度ご主人と会った際に本人に聞いた話に寄ると、ご主人の方がかなり陽菜紀にぞっこんで、早く身を固めてしまわないと陽菜紀を誰かに取られると思ったから、とのこと。
あんなに陽菜紀のこと大事にしていたのに。あんなに陽菜紀のこと愛していたのに。
どこでご主人の気持ちを狂わせたのか―――私には想像もつかない。けれど夫婦になると色々見えてなかった部分が見えることもある。知ったような口を利くようだけど、実際そうじゃないかと思うのだ。私の両親がそうだったように。



