鈴原さんは私よりかなり冷静で、この数時間彼なりに色々分析して仮説を立てたみたいだ。彼の話は説得力があり、ただただ動揺しているだけの私に大きな一歩をくれた。
「では、旦那さんが陽菜紀のスマホを利用して私たちにメールを送っていた、と考えてもいいんですかね…」
「それは分かりません。あくまで仮説ですので。俺は刑事でもないし探偵でもないので」
と鈴原さんはまたも申し訳なさそうに眉を下げる。結局、答えは出ず、そしてそれ以上の仮説も浮かばずここで話し合っていても何か分かるはずもなく私たちは帰ることにした。
帰る際
「送っていきますよ。確か……東町でしたよね」と鈴原さんが申し出てくれて、それは流石に申し訳ないと思ったから断ろうと思った。聞けば鈴原さんは私の住んでる町の隣の区とは言え、電車で15分はある。
「大丈夫ですよ。俺は男なんで何とでもなりますが、あのメールの後だと灯理さんは心細いかと思いますので。あ……迷惑なら…」
と最後の方は自信が無さそうに頭の後ろに手をやり、鈴原さんの優しさに今まで感じていた身も凍るような恐怖が凪いでいくのが分かった。
「ありがとうございます。では……お願いします」と、結局彼の申し出に甘えることにした。
本当は怖かった。誰かに傍にいてほしかった。相談する相手も居ず、真っ暗なあの部屋に一人帰らなければならないと思うと、とても心細かったのだ。
帰る際も鈴原さんはとても頼もしかった。
「あっちの道の方が遠回りになりますが、人通りも多いので安全かと思います」と地図アプリを見ながらルートを指摘してくれたり、「交番が近くにあるので安全ですね」といざと言うときの逃げ込み先をチェックしたり、と。
私は正直、男性にここまで親切にされたことがないからちょっと戸惑いつつも、素直な気持ちは嬉しかった。こんな状況になって不安だと思っていたが、こうやって鈴原さんと居られることに感謝も覚えた。その気持ちを抱くこと自体、私の中のおぞましい何かが目覚めた、と言う感覚はあったが、どこか麻痺していたのかもしれない。
本当は―――鈴原さんがこうやって親切にしてくれてるのは、陽菜紀の親友だから、と言う事実があることを、私はいっとき忘れていたのだ。



