■□ 死 角 □■


「最初はだんだんと帰りが遅くなったことを不思議に思った陽菜紀が聞いたら『残業だ』の『急な打ち合わせが入った』だの言っていたらしいですが、それが頻繁に続いて、しかも陽菜紀の使っている香水じゃない女ものの香水がスーツやシャツから香ってきたらしく……それは完全にクロじゃないか、と……
陽菜紀の方も発覚すると気持ちが冷めちまったようで。
だったら、と言うことで離婚を勧めましたよ。旦那は資産家でもあるし、財産分与と慰謝料をぶん取ってやればいいじゃないか、と」
最もな意見だ。私だって陽菜紀から相談されたらそうアドバイスするだろう。

でも陽菜紀はそうしなかった。

「……私、陽菜紀から相談ごとがあるって言われたとき、ちょっと疑いましたけれどまさか……って言う気持ちが大きかったんです。だって陽菜紀はSNSでご主人と凄く仲良さそうだったし、そんな冷え切っていたようには思えませんでした」

「ああ、あれは……陽菜紀の復讐……って言ったら大げさかもしれませんが当てつけみたいなものですよ。旦那の浮気相手もきっと陽菜紀のSNS見てるだろうから、って。
陽菜紀が離婚をしなかった理由は、自分がその浮気相手に『負けた』と思いたくないからだとも言っていました。半ば意地になってたところもあります」

鈴原さんの意見を聞いて、陽菜紀らしいと、ちょっと思った。

「鈴原さんは……そのご主人のお相手をご存じなんですか…?」気になったことを聞くと、彼はゆるゆると首を横に振った。
「そこまでは教えてくれませんでした。ただ陽菜紀が知らない女ではないことは確かです」
「と言うことはご主人の会社関係の人だと言うことですかね」

だったら経営者の妻として部下に会う機会だってあるだろう。そこで女の勘と言うのが働いたと言ったら納得だ。

「さあ、俺には分かりません」

鈴原さんは「お力になれなくて申し訳ない」と言い添えて、私は慌てて手を横に振った。
「いいえ、そのようなことは。でも……そしたら陽菜紀を殺したいと思う人が少なくとも二人は居たと言うことになりますよね」私は指を二本立てた。

「旦那と浮気相手の女、と言うことですか?」
鈴原さんに聞かれて私は大きく頷いた。

「なるほど、動機としては考えられますね。離婚話がこじれて……今回の事件で得をするのは旦那ですよね。浮気相手と再婚もできるし、陽菜紀にもし生命保険が掛けられてたのなら、旦那に金も入る」

生命保険。そうだ……その線が濃い。