まだ春先で、店内は程よく温度調整がしてあって、寒くない筈なのに、私は両腕をさすった。
「このメールを送ってきたのが誰なのか……それに目的も見当もつきませんが、とりあえずこのままにしておきましょう。警察に行ったり、こちらから返信するのは危険です」
と、鈴原さんが結論を出し、私もそれに頷いた。頷くしかなかった。それ以外に方法があるとは思えない。
結論が出てようやくコーヒーに手を伸ばした。まだ一口も口を付けていないのにすっかりぬるくなったコーヒーは香りも飛んでお世辞にもおいしいとは思えなかったけれど、干上がった喉を潤すには充分だ。同じように鈴原さんもカップの中のコーヒーを一気に半分程飲んだ。
カップをソーサーに置いて
「陽菜紀はあいつが知らない内に敵を作るタイプですからね。……そうゆうところ無自覚って言うか……考えたら、動機がある人間なんて幾らでもいそうですよね」
と鈴原さんが静かに言ったのを聞いて
動機―――………
今までそのことをすっかり失念していた私は、目をまばたいた。
「そう言えば……噂でも聞きましたし、刑事さんも言ってましたけれど……」私は周りの誰かが聞き耳を立ててないか充分気を付けて、声を押し殺して
「陽菜紀のご主人、浮気していたんですって。鈴原さんはご存じでした?」と聞いた。
こんな…告げ口みたいなこと本来なら嫌だけど、切羽詰まっているこの状態で言わずにはいられなかった。
鈴原さんは私の質問に一瞬、何かを言いたそうに口を開きかけたが、結局黙り込んだ。この反応からすると
鈴原さんは知って―――いたのだ。
「陽菜紀から……聞いたんですか…?」私も知らないことだったのに。
と次の言葉は流石に出てこなかった。陽菜紀の親友は私だと思ってたのに、と変な所で張り合っても仕方がない。
鈴原さんは小さくため息をつき
「聞かされたのは、半年ぐらい前でした。陽菜紀は珍しく酔っぱらってて、そのとき……」
と歯切れは悪いけれど何とか答えてくれた。
半年も前から―――……
私はその事実に驚きを隠せなかった。



