■□ 死 角 □■


思わず体全体が金縛りにあったかのように強張った。震えの止まらない手の中で震動するスマホを恐る恐る見下ろすと


“着信:鈴原さん”
となっていて、私は飛びつくように電話に出た。

『…あ、もしもし……鈴原です。お忙しいところすみません……あの、ちょっと気になったことがあって……』
と、鈴原さんの声はどこか緊張を帯びていたけれど歯切れが悪くて、でもそんなちょっとした変化に気づかない程、私は心の底から安堵していた。そして掛かってきた人が鈴原さんだった、と言うことで気が緩んだ。

「鈴原さ………どうしよう……陽菜紀が……陽菜紀から…」
迫りくる恐怖と緊張で涙が出てきた。嗚咽に混じって何とか説明すると、鈴原さんはすぐに会うことを承諾してくれた。

電話を切った後、それでも私はどこかで陽菜紀に見られてるかもしれない、と言うワケも分からない恐怖でしばらくの間、そこから動けなかった。

鈴原さんは私の会社の近くにあるコーヒーショップまで来てくれた。電話を切って30分後の事だった。彼もどうやら帰宅途中だったらしく、スーツ姿に手提げ鞄と言う格好だ。

「実は俺も……陽菜紀からメールが来て、もしかして……灯理さんの所にも来たんじゃないか、と思って電話したんです」
鈴原さんはそう言って自身のスマホを見せてくれた。内容は、私の所に送られてきたものと一言一句違いないもので、私は大きく頷いた。鈴原さんの所にメールが送られたきた時刻は私にメールが送られてきた時刻の1分前だった。

「どうして鈴原さんの所にも……?それに陽菜紀のスマホは警察の人が押収していったのでは?」と聞くと
「そことのところ分かりません。陽菜紀のスマホが警察の手に渡ったのかどうか……」
鈴原さんは顎に手を置き考えた。

「もし……もしも、ですよ…?陽菜紀のスマホを犯人が持ち去ったのだとしたら……」
「それで犯人から俺たちにメールですか?でもそうだったとしたら何故俺たちに?」

分からない。私が陽菜紀の事件の何かを目撃したり、無意識の内に何かを知ったりしたのなら、それは犯人の脅しと取れるけれど、私には心当たりがない。その仮説を鈴原さんに言うと彼も同じように分からないし、知っていることは刑事さんに話した、と言った。

唯一、私と鈴原さんの共通点と言えるのは事件当夜、陽菜紀のマンションで鉢合わせたことぐらい。約10分の間待っていたけれど、その10分の間で人の出入りはなかった。
後は、考えたくないし絶対に有り得ないことだけれど、本当に陽菜紀が私たちにメールを送っていたのだったら―――

考えただけで背筋が凍った。