■□ 死 角 □■


同僚たちが階段の奥に消えたことをきっちり見届けると、私は手近にある女子用のお手洗いに慌てて入った。まるで誰かから逃げるかのように個室に飛び込み、きっちり鍵が掛かってることを何度も確かめ、思わずその場にしゃがみ込んだ。

呼吸が―――短く乱れている。心臓が、狂ったように暴れている。手は震えていて、顔は―――見ないでも分かる、きっと真っ青。

私は震える指先でスマホの画面を再度タップして、画面に現れたメールの文章を再び食い入るように見つめた。



“私は全部知ってるのよ。全部、ね。

う・ら・ぎ・り・も・の

私はあんたを許さない。

忠告よ。


このことを刑事に話したら、あんたも私と同様引きずり込んでやる”


内容にも十分ショッキングだったが、何より私を動揺させたのは送り主が“陽菜紀”だったからだ。

どうして――――……!

開いたままの目が渇いて充血していくのが分かる。呼吸を荒げて震える手でスマホを確認したけれど、それは私の幻覚なんかではなく、消えることはなかった。

夢なら覚めて欲しい。と願ったけれどこれは夢じゃない。現実だ。

誰かの悪戯かと思い、もう一度メールを確認する。メールのアイコンは確かに陽菜紀のもので彼女が生前使用していた彼女自身の顔写真で、前のやり取りを遡って見ると確かに本人のものだと確認できた。

嘘―――……嘘よ……!

だ、誰かに相談しなきゃ……そうだ…こないだ曽田刑事さんからもらった名刺……確か手帳に挟んだままだ。慌ててバッグから手帳を取り出し挟まれた名刺を見つけたけれど

“刑事に話したら、あんたも私と同様引きずり込んでやる”と言う一文を思い出し、慌てて手帳を閉じた。

刑事さんに相談したら、私も―――陽菜紀のように殺される―――……?
迫りくる恐怖で的確な判断ができなかった。手帳を握りしめたまま、それでも誰かに相談しなきゃ…と言う思いだけは唯一あった。

優ちゃん。
沙耶ちゃん。
好未ちゃん。
麻美ちゃん。

―――でも、一体誰に相談しよう。何て相談すればいい?
アドレスを開いても、私には相談する相手がいないことに気づいた。考えたら、大事な判断は今まで全て陽菜紀に相談していたことを思い出す。

どうして―――……
どうしてここに陽菜紀は居ないの?

普通に考えれば陽菜紀がもう居ないのは分かり切っていたのに、恐怖と混乱に陥れられ、私はアドレスの画面を無駄にいったりきたり。

そのときだった。

私のスマホがブルブルと手の中で震えた。