■□ 死 角 □■


その日家に帰り着いてシャワーを浴びて、疲れていたのか私は早々に眠りについた。
深く浅く眠りのリズムが断続的に続いて、その合間に夢を見た。

昔の―――夢だ。

あれは確か小学校六年生の秋に行った修学旅行の後の想い出。旅行先は確か京都と奈良だった気がする。私は当然のごとく陽菜紀と同じグループになり、メンバーは沙耶ちゃんと優ちゃん、好未ちゃんと麻美ちゃんと言う面々だった。
旅行先にはプロなのかどうか分からないけれど当時の私から見たらやはりその道で食べているカメラマンの人が同行し、私たちの旅行の様子を写真に収めていた。旅行後、現像の仕上がった写真が廊下にずらりと貼られていて、その写真には番号が振ってあった。

写真は生徒たちが自然な動作で旅行を楽しんでいるもので、中には意識してポーズをとったのもあったけれど半分はいつの間にか撮られていた自然なものだった。その番号を購入用紙に記入して、確か一枚30円だったか50円だったかで購入できたのを覚えている。

「お、355番、これ佐竹じゃ~ん、俺買おっ」と別クラスの男子が廊下に張り出された写真を眺めながら用紙に記入していて「何、お前も佐竹狙い?あーあーやっぱライバル多いよな」ともう一人が頭の後ろで腕を組んだ。その355番は当時小学六年生だった陽菜紀が一人で映っているもので、カメラ目線でにこやかに手を振っているものだった。

陽菜紀は当然この頃から男子にモテた。陽菜紀に直接告白してくる男子も居たが、中にはその勇気が出ず写真だけを手に入れる子も少なくなかったよう。まるでアイドルのポラロイドを買うファンのように思える。陽菜紀は校内のアイドル的存在だったのだ。

逆のパターンも多く、女子が好きな男子の写真をこっそり購入することもあった。私は当時特別好きな子もいなかったし、そもそも自分が写真に撮られることを好まなかったので、グループ全員で映っている記念写真とクラス全員で映っている写真を数枚だけ購入した。
そのとき、廊下に張り出されている写真をぼんやり眺めるヤマダくんを見た。

あ、ヤマダくんだ……久しぶりだな。クラス離れ離れになっちゃったし、その頃は彼を見ても特別何とも思わなかった。いっとき陽菜紀と付き合ってると言う噂を耳にしたけれど、その噂もすぐに風化した。

あのときの私たちはまだ幼かったのだ。とても―――

ヤマダくんも陽菜紀の写真を眺めていた。彼も355番を買うのだろうか。

私はそのとき好未ちゃんと次の図工の移動教室の為、図工室に向かっているときだった。好未ちゃんは昨日放映されていたアニメの話をしていたが、私の耳にはまったく入って来なかった。

視界の端でヤマダくんを捉える。ヤマダくんは小さく決意したように用紙に番号を書いていた。その用紙に何番が記載されていたのか、

知らない。