■□ 死 角 □■


私も鈴原さんに倣って割りばしを割り、お味噌汁のお椀の蓋を外し、その中に箸を入れると
「写真、撮らなくていいんですか?」と向かい側で鈴原さんが聞いてきた。
「写真?」何の?と首を傾げていると

「食べ物の写真ですよ。ほら、陽菜紀と食事行くと必ずあいつ料理の写真撮ってましたから」

「ああ…」ようやく意味が分かった。確かに私と一緒にご飯に行っても陽菜紀は必ず写真を撮っていた。SNSにアップするため、と言っていたか。会社の同僚も同じようなことを言っていて基本は社内でお弁当だけれど、たまに外でみんなでランチする際に陽菜紀と同じように写真を撮っていたっけ。

「私、SNSは登録してますけど、知人のを見るだけって言うか。そもそも私、大して自慢できる生活してないので」と、言った後になって後悔した。これじゃ地味な自分を自から宣言してるようなものじゃないか。
「鈴原さんは、やってますか?」と流れで慌てて聞くと
「僕もあまりやってません。たまに出かけたりしたときぐらいかな」と答えが返ってきた。

そっか……と言うことはやっぱり好未ちゃんや沙耶ちゃんが『どこかで見た』と言っていたのも、きっと陽菜紀のSNSのタイムラインで流れてきたのを見ただけなのだ。

そこから鈴原さんは食事をしながら、陽菜紀のアルバイト時代の話をしてくれた。陽菜紀は周りに疎まれても……いいえ、疎まれるぐらい覚えが早かったようで要領も良く、仕事に関しては真面目だったようだ。

しかし、こと人間関係になると全くと言って良いほど構築が下手だったみたい。先輩を敬う態度が出来ない、同僚にもズバズバ指摘する、後輩…と言うのは陽菜紀が入ってから誰かが入ってくることがないので、これは何とも言えないけれど、でも後輩を可愛がるタイプでもなさそう。
鈴原さんは陽菜紀の半年先輩で、大体仕事の内容は彼が陽菜紀に教えたらしいが、教える際も「ここってこうした方が早くないですか?」とか「絶対このやり方は良くない」とか色々と反抗…と言うか指摘が入ったらしい。陽菜紀らしいっちゃらしいが、“社会性”には欠けている。

「最初は戸惑いましたけれど、別に悪意があって言ってるわけじゃなく、本人の考えてることがあまり深く考えずポンポン出る子なんだな、って思うと何か吹っ切れたと言うか」
鈴原さんは苦笑を浮かべる。

「で、結果一か月でスタッフから嫌われちまって。でもそれを指摘すると陽菜紀はケロっとして、『私何か間違ってる?』って言うんです」
「陽菜紀は昔から形に捉われない性格だったから……四角い線の中に納まるタイプではないんですよ」

私はお茶を飲みながら鈴原さんを見た。
そう、“社会”が四角い箱なら、陽菜紀はいつも形のない自由なものだった。