「あの子ね…優子。高校デビューしたんだよ」
「高校デビュー?」
「ほら、小学校、中学校時代は冴えない感じだったけれど高校に行くと急にはっちゃけちゃうってヤツ」と好未ちゃんが説明をくれたけれど、それは流石に分かる。
「ほら、小学校と中学校は絶対的地位にいた、女王の陽菜紀が居たから」
女王―――……?
これはさすがに聞き慣れない単語で目をまばたくと
「だってやっぱり一番可愛くて面白くて常に輪の中心にいたのは陽菜紀だったもんね。あのとき男子のほとんどは陽菜紀のこと好きだったし、優子はどれだけ頑張っても陽菜紀には叶わなかったし、何やっても陽菜紀の二番煎じにしかならなかったしね」
「そうそう。噂では聞いてたけど。高校になって強力なライバルがいなくなったから何か……彼氏とっかえひっかえとか、パパ活してるとか」
と、麻美ちゃんが言い辛そうに顔をしかめ
「え……?」
思わず聞き返してしまった。
「ま、あくまで噂だけどね。でもやっててもおかしくないよね」
「火のない所に煙は立たないって言うし」
と二人は頷き合い、またも特有なペース……ではなく、今度は話の内容に私は一人この状況についていけない。
「あの……好未ちゃんは優ちゃんと仲良しだったんじゃないの?」
「別に。それ程仲が良いってわけじゃないよ。中学まで結構つるんでても楽しかったけど、高校から急に変わっちゃったし、正直私はついていけない。今だってほら、陽菜紀の死を利用して人気取りしてるじゃん。
それに今は強敵、陽菜紀が亡くなって急に沙耶香のこと敵視しだしたし。ほら、あの子…沙耶香、男子に人気があるじゃん?」
確かに優ちゃんのしたことは不謹慎だし、もし他意がないにしろ配慮が欠けてる気がする。
沙耶ちゃんのことを敵視する理由も分からない。正直、そんなことで?とさえ思う。
くだらない。
くだらない、くだらない、くだらない。
『くだらない』の五文字が頭の中を虫が這うようにいったりきたりして、酷く気分が悪かった。
「ねぇ、ところで麻美ちゃんは…今何してるの?」
私はこの言いようのない黒い気分を払拭するため、わざと明るく麻美ちゃんを見て話題を変えた。
「私は主婦だよ。二年前に出来婚して一児の母だからね」
麻美ちゃんの発言にびっくりした。あの大人しかった麻美ちゃんがおめでた婚とか、小学校や中学時代には想像もつかなかった。ここ三年程年賀状のやり取りも疎遠になっていたから、尚更だ。
「言ってくれればよかったのに……そしたらお祝いしたのに」と申し出ると
「灯理ちゃんはそう言うと思った……けどさ、何か自慢してるみたいで恥ずかしいじゃん?」と麻美ちゃんは苦笑い。
「うちらは陽菜紀や優子みたいな人種じゃないからね」と、好未ちゃんが腕を組む。
人種―――…?私たちは同じ女で、同じ学年で、何も変わらないじゃない。と言いたいが確かに私と陽菜紀を分ける“種”と言うのは存在する。それは好未ちゃんが指摘して改めて気づいた事柄だ。
麻美ちゃんもどちらかと言うと私と同じ“種”だと思っていたが、どうやらその壁を自らの力で切り拓き、昇ったのだ。
私にはできなかったこと、麻美ちゃんはやりとげた。
「まだ子供小さいし、旦那も仕事で忙しいし、毎日バタバタよぅ」と麻美ちゃんは笑ったが、その笑顔はどこか幸せそうだった。
その笑顔を見て、作家の夢はどうしたの―――…?
とは、聞けなかった。



