■□ 死 角 □■


好未ちゃんが去って五分も満たないうちに、喫茶店の古風なカウベルが鳴り顔を上げると、走ってきたのかちょっと慌てた様子で
曽田刑事さんが、姿を現した。

「中瀬さん、遅れてすみません」

今日はいつものくたびれたスーツ姿じゃなく、いつもより少しだけ上質な生地の仕立てで、ワイシャツもノリが利いていそうだ。ネクタイも爽やかなネイビー。いつもボサボサの髪はきちんとセットしてあって髭もそってある。見慣れない姿に最初別人かと思ったけれど、やっぱりこの人に爽やか路線を求めても無駄だと分かった。

私は彼の姿にちょっと笑った。

「遅れてないですよ。それにいつもの格好でいいと言ったのに」

「いえ、最初が肝心なんで」と曽田刑事さんは照れ笑いを浮かべて私の向かい側に腰を下ろす。テーブルには好未ちゃんが飲んだコーヒーのカップがまだ片付けられていなくて残ったまま。曽田刑事さんはそのカップを不思議そうに眺め

「誰かお約束でも?」と聞いてきた。

「ええ、ちょっと友人に会ってたんです。昔の……話をしていました。でも彼女とももうこれで最後ね」

曽田刑事さんは私の意味深な発言を気にした様子もなく、きっと柄にもなく緊張しているのね。せっかちにウェイトレスを呼ぶとコーヒーを注文した。

「遅刻しないように気を付けてたんですが、何せ店が分かり辛くて。久保田なら地図アプリでサクサク来るでしょうけど、昔人間なんで」と言い、曽田刑事さんはお店の所在地が乗った地図をテーブルに置き、恥ずかしそうに笑った。

「さっきも言った通り遅刻じゃありませんよ、それに暇はしていませんから」と返すと曽田刑事さんがほっとしたように息をつき、そのタイミングでコーヒーが運ばれてきた。

カップから湯気が立ち昇って、淹れたての香りが鼻の下を優しくくぐる。

そのときだった。