■□ 死 角 □■


何と言うか……陽菜紀は昔から我儘なところがあった。けれど何故かその我儘を許せたのだ。それが陽菜紀の持っている天性のものだと思っていた。
鈴原さんは陽菜紀のしつこい誘いに根負けして何度か呑みに行ったと言う。幸いにも鈴原さんはアルコールには強い方で、好きだったからそこだけは良かったのだけれど。

けれど

「陽菜紀は会う度に君の話をしていたよ」
「私?……その……架空の彼氏との…作り話?」と聞くと、鈴原さんは首をゆっくり横に振った。

「いいや、陽菜紀の嘘は君に彼氏が居ると言う、たった一回だけ。その後は君と出かけた場所、君と食事したこと、君と長電話したこと……君との日常を語っていた」

私と陽菜紀の日常を―――……
何故そんな意味のないことを。話題がないのなら誘わなければいいだけのこと。それじゃまるで―――

「俺への当てつけさ」

鈴原さんは切れ長の目を一層険しくさせて低く呟いた。
「当てつけ―――……」言っている意味は分かるし、私だって薄々勘付いていた。けれど何故陽菜紀が鈴原さんにそんな陰湿なことをしたのか、理由が分からない。

鈴原さんは元々私の方に置かれていた空のグラスにワインを注ぎ入れると、勢いよくそれを飲み干した。
トン、とやや大きな音を立てグラスをテーブルに置くと

「あのときから―――陽菜紀の中には壮大な計画があった。驚くような……理解しがたい計画がね。
その計画の為、俺が邪魔だった」

計画―――……?

陽菜紀は一体何を企んでいたの?

それに鈴原さんが邪魔だったって―――………?