■□ 死 角 □■


陽菜紀が何故、そんな嘘を着いたのか。単に鈴原さんと付き合いたかったからそう言ったのだろうか。

「俺も灯理さんからそのことを聞かされて、うっかり騙された自分を恥じたよ。もしあの嘘を信じていなければ、違う未来があったのかもしれない」

そう―――なのかしら。

たとえ悪意のない嘘を信じず、その後に殺人事件まで発展するような未来が待っていなかったのか、今の私には分からない。

ただ、この人には罪悪感と言うものが欠けている。もう四人も人を殺しているのに、そして五人目まで手に掛けようとしているのに、まるで悪びれた様子がない。その姿は、まるで悪戯が見つかった後の無邪気な少年のようだ。

その事実が急に恐ろしくなってぶるりと身震いをする。この先を聞きたかったけれど聞きたくないと言う気持ちも芽生えた。

喉がからからに干上がって、さっきまでワインには手を出すまいと思って居たが、その渇いた喉に潤いを与えたくて私の手はとうとうワインに伸びた。グラスに何か仕込んであるのなら別だけれど、少なくともボトルの方は安全だ。鈴原さんも同じものを飲んでいる。

けれど流石にワインをラッパ飲みするわけにもいかず戸惑っていると、鈴原さんがちょっと悲しそうに笑い自分の飲んでいたグラスを私に手渡してきた。

「こっちのをどうぞ。毒なんて入ってないから」
私の恐怖心を見透かされている。けれどそこは素直に厚意を受け取ることにした。とりあえずは鈴原さんから受け取ったワインを一口入れると喉がほんの少しだけ潤った。

「と、まぁ陽菜紀には嘘を着かれていたわけで、俺は失意のどん底に落とされた。それでも一年ぐらい陽菜紀とは一緒に働いて、最初は陽菜紀がバイトを辞めて、続くように俺も辞めた。
心機一転しようと思ったんだ。それで陽菜紀との縁も切れると思った。まぁ彼女のことは嫌いではなかったけれど苦手なタイプで、あの頃からオトコ関係が派手だったし」

確かに……男性との関係は派手ではあった。会う度に違う男性の名前を出されて、覚える頃にはまた変わっていると言うことなんてしょっちゅうだ。私なんて誰からも相手にされなかったから、その状況は少し羨ましくもあった。

鈴原さんの話によると、二人はバイトを辞めても陽菜紀はことあるごとに鈴原さんに連絡してきたようだ。用件は“暇だから遊ぼう、呑みに行こう”と言うのが大半で、最初の頃は鈴原さんもその申し出に断っていたらしい。けれど陽菜紀は鈴原さんが首を縦に振るまでしつこかったという。

陽菜紀らしいっちゃらしいが。