タクシーで沙耶ちゃんの入院している総合病院に行き、受付を通り過ぎる際に、鈴原さんが

「あ……」と短く声を挙げた。
「え?」思わず鈴原さんを見ると
「いえ……見間違いみたいでした…」と目を擦っている。

鈴原さんが一体何を見たのか気になったが、その疑問はすぐに消え去った。曽田刑事さんが久保田刑事さんと現れたからだ。

「すみませんね、夜分遅くにお呼び立てして」と曽田刑事さん。

「いえ、大丈夫です。それよりあの……麻美ちゃんが逮捕されたって…本当ですか」と早口に聞くと「とりあえず荒井さんに会ってあげてください」と言われ、私たち一同は集中治療室に向かった。

一瞬、曽田刑事さんの口ぶりから沙耶ちゃんの容体が急変したのかと思ったが、そうではなく、峠を越したと言うことで一般病棟に移される、と言う。そのことに張りつめていた緊張の糸が緩んだ。

一般病棟に移る、とは言っていたけれど沙耶ちゃんの容体は相変わらずのように見える。たくさんのチューブが彼女の体を取り巻き、人工的に呼吸を送っている状況。その周りで看護師さんたちが移動の手続きをしている。

「沙耶ちゃん……」集中治療室のガラスの扉の中を覗きながら眉を寄せていると

「鳥谷は荒井 沙耶香さんの殺人未遂は認めても、片岡 陽菜紀殺しと、テレビ局に中瀬さん…あなたの名前で写真を送ったのは否定しています」と曽田刑事さんは眉をひそめた。

「どうして……麻美ちゃんが沙耶ちゃんを……?あの……動機って言うんですか……何でですか」と早口に思っていることを聞くと

「実は鳥谷はちょっとしたブロガーでして。そこそこ名の知れてる、いわゆるブログに小説を載せている作家だったことご存じでしたか?」と久保田刑事さんに聞かれて私は目を開いて首を横に振った。

麻美ちゃんが……?

「鳥谷は“愛 ひなこ”と言うペンネームで活動していました。作品は主に恋愛小説が主で、数年前までは結構人気だったみたいですがここ最近は人気が低迷していたようです」
と久保田刑事さんが説明をくれて、ブログの一ページなのだろうか画面をプリントアウトしたものを手渡してくれた。