以前からレイラ様は完璧で優秀なお方だったとよく主にセオドアから聞かされていたが、そうなのだと改めて思える話だった。
記憶を全て思い出したからといって、こんな短期間で、しかも自分の足で、ここへ帰って来れるとは、レイラ様がよっぽと優秀だった証拠ではないだろうか。
おそらく同じ立場になった私では普通に周りの人の力を借りても1ヶ月以上はかかるだろう。
「あちらではどんな生活をしていたの?辛くはなかった?」
「ええ、お母様。平民の生活は貴族と比べれば苦労もあるけれど、その分また違った楽しみや自由があるのよ。私がいたのは小さな村だったけど、とても自然豊かで、季節の変わり目にはよくお祭りをしていたわ」
「まあ、それはどんなお祭りなのかしら?」
「そうね…。季節によって意味や雰囲気が変わるのだけど、今は夏でしょう?この前は涼しくなるようにと水かけ祭りをしたわ。とっても楽しかったのよ」
奥方様とレイラ様がよく似た柔らかい笑顔で楽しそうに笑い合っていると、そこにさらにセオドアも入ってきた。
「水かけ祭りって水をかけ合うだけなの?他のことはしないの?」
目をキラキラと輝かせ、愛らしく笑うセオドアにあの方はどちら様ですか?となってしまう。
ここに来て6年だが、セオドアのあんな表情は初めて見た。
大好きなホンモノの姉さんの前だと、セオドアもあんなふうにデレデレになってしまうらしい。
「水をかけ合うことがメインだけど、もちろんそれだけじゃないわ。屋台も出るし、歌が上手い人は歌を披露するし、ダンスも踊ったりするの。私は毎年、祭りを締める歌を歌っていたのよ」
「へぇ!さすが姉さんだね!」
2人の会話を聞き、伯爵様も「レイラはどこにいても、例え記憶を失くしていたとしても、レイラだな」と嬉しそうに笑っていた。



