捨て台詞を吐き、今更逃走を図る全裸の男を、咄嗟にレジを飛び出した後輩が追いかける。扉が激しく開閉され、異常な男と正常な男二人が外を疾走した。後輩の印象が強盗に殴られた時と偉く違うのは、自分にとってとても大事な人で、守るべき人ができたからだろうか。

 後ろで震えながら息を詰める女性を見遣る。この女性を自分の彼女と重ね合わせたのだとしたら、後輩の中に突如として芽生えた闘志にもそれとなく納得がいった。恋は人を変える。絶対に逃すわけがない。

 全裸男は後輩に任せ、彼はひとまず女性を椅子に座らせた。問題の人間がいなくなり、多少は落ち着きを取り戻したようだが、それでもまだ震えているように見えなくもない。

「もうすぐ警察が来ます」

 抑揚なく告げた後、彼は外に目を向けた。薄らとだが、後輩が男をとっ捕まえて羽交い締めにしている様子が見えた。相手は全裸で裸足である。コンクリートの上を走ると痛みが伴うはずだ。思うようにスピードを出せるとは思えない上に、おっさんと呼べそうな見た目でもあった。決して若くはない。そんな人間が、まだ二十代の若い男、当然ながら全裸でも裸足でもない男から逃げ切れるはずがなかった。

「あ、あの」

 怯えていた女性に声をかけられた彼は、外で一悶着している男二人から目を逸らして首を動かした。女性は何か言いたそうに唇を開いたり閉じたりしている。

 なぜ自分がこんな目に遭ったのか、といった心底どうでもいい身の上話でも始めるつもりだろうか。長話は嫌いである。女性に関するなぜも、あの全裸の男に関するなぜも、彼にはこれっぽっちも興味がない。死を求める人間が、なぜそれを切望するようになったのかに関心を示さないように。だからこそ彼は、女性に何も聞かなかったのだ。