◇
一人暮らしをしているアパートに帰り着いたのは、午前四時頃だった。女の家を後にした時と比べると、外は随分と明るくなっている。
予め指定された駐車場にバックで車を停めた彼は、ナビの履歴を消去してからエンジンを切った。殺した女の家に行くことはもう二度とない。
鍵などの貴重品を持って車から降りる。朝に近い時間帯であってもまだまだ寝入っている人は多い。同じアパートで暮らしている住人の迷惑にならないように、できるだけ音を立てずに階段を上がり、二階の一番奥にある二〇一号室へ足を踏み入れた。後ろ手で静かにドアを閉め、鍵をかけ直す。
隠れて殺人を繰り返していながらも、それを抜きにして考えれば、彼にもある程度の常識は備わっていた。寡黙で大人しく、特筆するような悪い噂もない。どこにいてもおかしくない普通の青年である。
そんな彼が人を殺しているなど、アパートの住人含め誰も知らないだろう。
靴を脱ぎ、浴室やトイレの前を通り過ぎて部屋へと入った。
電気も点けずにベッドに寝転がった彼は、そこでようやく肩の力を抜いた。長時間の運転で疲労を感じている。人の命を奪うことに高揚する分、その代償は大きいようだ。それでも彼は、やめられない。
人を殺すことは、いつしか趣味と同等になっていた。誰にでも趣味はある。彼にとってのそれが、殺人だっただけの話だ。殺人が一番しっくりきただけの話だ。誰もが抱いたことのある何かしらの欲求が、殺人だっただけの話だ。殺したいから殺す。それだけの話だ。
倫理観が壊れていようとも、それを堂々と表に出したり他者に匂わせたりはしない。そうするべきではないことくらい理解している。何の自慢にもならないことくらい理解している。
一人暮らしをしているアパートに帰り着いたのは、午前四時頃だった。女の家を後にした時と比べると、外は随分と明るくなっている。
予め指定された駐車場にバックで車を停めた彼は、ナビの履歴を消去してからエンジンを切った。殺した女の家に行くことはもう二度とない。
鍵などの貴重品を持って車から降りる。朝に近い時間帯であってもまだまだ寝入っている人は多い。同じアパートで暮らしている住人の迷惑にならないように、できるだけ音を立てずに階段を上がり、二階の一番奥にある二〇一号室へ足を踏み入れた。後ろ手で静かにドアを閉め、鍵をかけ直す。
隠れて殺人を繰り返していながらも、それを抜きにして考えれば、彼にもある程度の常識は備わっていた。寡黙で大人しく、特筆するような悪い噂もない。どこにいてもおかしくない普通の青年である。
そんな彼が人を殺しているなど、アパートの住人含め誰も知らないだろう。
靴を脱ぎ、浴室やトイレの前を通り過ぎて部屋へと入った。
電気も点けずにベッドに寝転がった彼は、そこでようやく肩の力を抜いた。長時間の運転で疲労を感じている。人の命を奪うことに高揚する分、その代償は大きいようだ。それでも彼は、やめられない。
人を殺すことは、いつしか趣味と同等になっていた。誰にでも趣味はある。彼にとってのそれが、殺人だっただけの話だ。殺人が一番しっくりきただけの話だ。誰もが抱いたことのある何かしらの欲求が、殺人だっただけの話だ。殺したいから殺す。それだけの話だ。
倫理観が壊れていようとも、それを堂々と表に出したり他者に匂わせたりはしない。そうするべきではないことくらい理解している。何の自慢にもならないことくらい理解している。



